第27話 シズクという少女


「えっ。一二三って、婚約者にフラれたの!しかも、間男に殺されかけたって!!」


 干し肉と食べられる野草のスープを作ってきたシズクは、俺たちが北の集落を目指す理由を聞いて呆然としていた。


 そのようになると俺の事情を全て話さなければならず、新や優子のことをシズクに話したのである。無論、桜についても色々な事を喋った。


「……勿体ない。私だったら、一二三のことを絶対にはなさないわよ。どれだけの贅沢な女なのよ!!」


 シズクは、俺の話を聞いてプンプンと怒り出す。


 俺は何も言わなかったが、シズクの怒りで少し救われた。


 優子にフラれてから、俺自身の価値が下がったような気がしていたのだ。シズクの怒りは、そんなことはないと言ってくれているように聞こえた。


「シズク……ありがとう」


 シズクは、俺の事を睨んだ。


 鋭い視線に、俺は思わず両手を上げた。降参をしたのは、眼力だけで殺されそうだったからだ。


 歳下の女の子だというのに、俺以上の修羅場を経験しているせいだろうか。シズクの怒りは、凄まじい迫力があった。


「なにが『ありがとう』よ。私は、優子っていう女に文句を言っているのよ!」


 ぎゃんぎゃんと騒ぐシズクの姿に、俺は思わず笑ってしまった。シズクは大人顔負けの弓の名手で、武器を持たせれば冷静なハンターだ。


 しかし、顔見知りである俺の前では、年相応の素顔を出す。そういうところが、桜と似ていて可愛いと思う。


「決めたわ。私も北の集落に行く!」


 シズクの言葉に、俺と桜は驚いた。


 そんなことをシズクが言うとは、思ってもみなかったからだ。


 シズクには、北の集落に行く意味がない。


 そして、シズクが怒っている優子はすでに亡くなっている。意味が、本当にないのだ。


「危険かもしれないんだぞ。それに、シズクには北の集落には因縁もなにもないだろう」


 俺の言葉に、シズクの眼つきが鋭くなる。桜など怖がって、俺の後ろに隠れてしまった。


「私の初恋の男を殺そうとしたヤツが許せないからよ。百回ぐらい殴ってやる」


 シズクの言葉に、俺は言葉を失った。


 百回ぐらい殴ってやるという凶暴な言葉ではなくて、その前の言葉だ。


 初恋……の相手が俺だなんて、今まで聞いたこともなかったからだ。


「今までは婚約者の優子っていう女に遠慮していたけど、もう障害はなくなったわ。ということで、恋人候補として一二三を殺そうとしたヤツを殴りにいく!」


 やる気を出したシズクの姿に、桜が腹を抱えて笑い出す。あまりに笑いすぎて、呼吸困難になりかけている。大丈夫だろうか。


「一二三……。お前の知り合いは面白いな」


 そう言いながらも、桜はシズクにことを認めたようだ。シズクが共に北の集落に行く事に対して、全く文句を言わなかった。


 シズクの弓の腕は頼りになるのは知っているが、俺としては恋心を利用しているようで罪悪感を抱いてしまう。


「一二三を殺そうとしたヤツを絶対に、許さないんだから」


 一方で、シズクは大張り切りだ。


 桜が、俺の耳元でささやく。


「このまま一緒に行くことを了承した方が良いぞ。このタイプの女子は、断っても後ろからついてくる」

 

 たしかに、シズクならやりそうだ。


 そのような危ないことをやらせるよりは、俺たちと一緒の方がまだ安全だろう。シズクは戦力になるし、居て邪魔になるような人材ではないのだ。


 こうして、俺たちの旅にシズクが加わったのであった。



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