第5話 白槍

 やっとだ....やっとヒーローになれる時が来た。いや....まだだな。俺がヒーローになる時は決まっている。あいつを倒した時....兄の仇を討った時だ。そう決めている。だから、目の前の敵はまだ通過点に過ぎない。はやくこの戦いを終わらせて、兄の仇を討つ...それが、、それが俺が今まで諦めないでヒーローを目指してきた理由だ。



 くそ!なんなんだあのガキは!急に超人に覚醒したかと思えば、元々超人かのように戦い慣れてやがる。ありえねぇだろ普通、こんな事。奴は今ここで殺す!全力で殺す!でなきゃあの方にとって邪魔な存在となる。


「クソガキ!やるじゃねーか!...俺はお前のことをただの常人だと下に見ていた。仕方ねぇ.....本気で戦ってやるよ!本気で殺してやるよ!!!」


「本気で殺す?....俺はお前に構ってる暇は無いんだよ」


「っあ?なんだとこのガっっ.....」


 太陽は一瞬で男の前に移動し、拳を男の顔面、腹へと連打し次々とめり込ませる。


「っがぁ!!...クソガキっ!」


 男が喋り終える前に、太陽は男を殴り飛ばす!


 男は瓦礫をどかし、立ち上がり太陽に向かって言う。


「おいクソガキ!俺をまじで怒らせたな....超人に覚醒したからって調子乗りやがって!後悔しろよ!...所詮、お前はただの運が良かっただけの人間だ!【爆爆全弾ばくばくぜんだん】」


 男は両手から特大級の爆発エネルギーを凝縮したエネルギー弾を生成する。


「死ね!!!クソガキ!!」


 男は爆爆全弾を太陽に向けて放つ、爆爆全弾は地面を削りながら太陽に向かって前進していく。


「これで終わらす....」


 太陽は手のひらに、バチバチと白色の槍状の物を生成する。


「【白槍はくそう】!!」


 太陽は白槍を力強く握り、おもいっきり振りかぶり、男の方へ白槍を放つ。


 白槍から放たれるエネルギー波がバチバチと鳴りながら周囲を削り取る。そして白槍は爆爆全弾と衝突する.....いや見事にど真ん中を貫通し、爆爆全弾は大きく爆発し、周囲の地面を破壊する。そして白槍は男に向かっていく。


 っは!?俺の本気の技が破られた!?こんなぽっとでのガキに!?ありえねぇ!ありえねぇだろうが!!....っざけんな!!ふざけんな!!俺は、、俺はあの方に認めてもらわなきゃならねぇんだよ!!!


 そうこう考えてるうちに白槍は眩い光を放ちながら男の腹に衝突し、衝突すると同時に街を巻き込むほどの大きな爆発を生む。


 眩い光を放つ、白い爆発が街の建物を襲う。そして爆発から成る爆風が街の建物を襲う。


 少し経つと爆風は止み、男が動かず瓦礫に重なって倒れているのが見える。


「あんた、奴を倒したの!?」


 いつの間にか、後ろに恵が立っており太陽に聞く。


「あぁ、多分な」


「ちょっとあんたそこで待ってなさい、私はあいつを拘束してくるから」


「あぁ、分かった」


 太陽は近くの瓦礫に座り込む。


 やっと...やっとチャンスが来た。兄の仇を討てる最大のチャンスが。何度も諦めそうになった。自分は常人で、超人に対しては何もできない人間だからささっと諦めろと毎日のように自己否定してた。けど昔から憧れていたヒーローになりたいという強い気持ちと兄の言葉が忘れられない。兄に生かしてもらったこの命で、兄の仇を討ち憧れていたヒーローになり、兄に助けてよかったと思ってもらいたい。そのためにも、俺はもっと強くならないといけない。そしてあとは、あいつを見つけ出してぶっ飛ばすだけ。ただそれだけだ。


 恵は動かず、倒れている男の所へやってきた。


「ひどいやられようね...まさか覚醒したばっかの超人が、あんなに強いなんて....」


「恵さん、遅くなってすいません!」


 後ろから、急に声をかけられ振り向くと同じ研究所で働く応援要請していた後輩がいた。


「えぇ、大丈夫よ。ちょうど男がやられた所だから」


「え?...これ恵さんがやったんですか!?」


 後輩は驚きの声を上げながら恵に聞く。


「そんな訳ないじゃない、私は攻撃系の能力じゃないじゃない」


「ですよね、えっ......じゃあ誰が?」


「あぁ、あそこの瓦礫に座ってる男よ」


 恵は少し離れた所で瓦礫に座ってる太陽の方に指を指す。


「え!?あの人が.....彼はヒーローなんですか?」


「それが驚くわよ。数分前までただの常人だったのよ」


 その言葉を聞いて後輩は、叫び声かってぐらい大きな声で驚く。


「えーーーーー!!!.....あ、ありえないですよ恵さん。常人が超人に勝つなんて!!」


「そう、ありえないのよ。彼は、今は超人よ」


「え、どういうことですか?」


「例の薬を打ったのよ」


「え!超人覚醒剤を!?」


「えぇ、しかも2本も」


「はーーーーー!!!?.....じゃあなんで今、あの人生きてるんですか!!?」


 2本と打ったら、普通体が持たないはずなんだけどな。


「まぁ簡単に言うと奇跡ね。だから彼にはこの後研究所に来てもらい、色々調べさせてもらう必要があるわ」


「そうですね、調べる必要がありそうですね」


「えぇ、だからここは任せてもいいかしら?私は車で彼を研究所に連れて行くわ」


「はい、もちろんです。この男の連行は任せてください!」


「ありがとう、じゃあよろしくね」


 恵は後輩に、そう言い太陽の所へと戻る。


 座っている太陽の前まで行き、話しかける。



「お疲れの所悪いけど、あなたにはこれから研究所に来てもらい色々と調べさせてもらうわ」


「いや、勘弁してくれ。今日は早く家に帰って休みたいんだけど」


「そうしてあげたいけれど、そういう訳にもいかないのよ.....あんたが2本も打った、あの薬...いくらするか分かってる?あなたが一生働いても返せない額だわ.....いい?あなたに拒否権はないの」


 っっくそ、確かにコイツの言う通りだな。1本目はまだしも2本目は勝手に使ったからな。まぁ仕方ないか。それにあいつの情報も知れるかも知れないし、行くか。


 太陽はため息を吐きながら立ち上がる。


「分かったよ、付いていけば良いんだろ?」


「そうよ、大人しく来なさい.....てかあんた名前は?」


 あぁ、そういえば俺の名前は名乗ってなかったな。教えといた方がいいよな?


「あぁ、そういえば俺は名乗ってなかったな。俺は伊藤太陽、よろしく」


 太陽は自分の名前を名乗り、手を差し出す。しかし恵はフンと首を振り、歩き出す。


 はぁぁー、握手ぐらいしろよ。せっかく俺から手をだしたのに。やっぱこの女苦手だな...気が強いっていうか、なんていうかにがてだなぁ。


 太陽は恵に、若干の苦手意識を持ちながらついていく。


 近くにあった黒い車まで歩き、恵は乗車席の扉を開けて言う。


「この車で、研究所まで行くわ。乗りなさい」


 「はいよ」

 

 太陽は黒い車にのり、恵が所属してる研究所へと向かう。


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Dヒーロー 春秋 @annko17

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