魚の恩返し
みとか
第1話 魚を助けただけなのに
私が住んでいる街は海沿いにある。
夏は海水浴客がたくさん来て賑わうが、暑さが和らぐと釣りを趣味にしている人たちが堤防やら防波堤から釣り糸を垂らしているのをよく見かける。
高校生になったばかりの私も、たまたまクラスメイトの男女数人と防波堤で釣りをしていた。
私は釣りは初めてなので、詳しい男の子にいろいろ教えてもらいながら糸を垂らしていた。
友達同士でいろいろ話しながら釣りをしていると、クンッと竿に振動が伝わった。
「えっ、来たかも!どうしよう、上げてみていい??」
「ホントだ、ゆっくりね!」
ドキドキしながら竿を立ててリールを巻いていくと、海面に影ができる。針にかかった魚だ!針を外そうとしているのか、あちこちに泳いでなかなか引き上げることができない。
「結構大きいんじゃない?あ、今!一気に!」
周りの友達にやいのやいの言われながら、初めて釣果をあげた。
自分ではできないので、慣れた友達に針を外してもらい魚をバケツに移す。
「何の魚だろうね。見たことないな。」
釣り好きな友達が言う。
確かに、ウロコがオーロラ色で綺麗だ。
大きさは20センチくらいかな?熱帯魚みたいなカラフルさはないけど、陽に当たってキラキラ光っている。
「記念に写真撮ってから、リリースしよっと。」
スマホで魚の写真を撮ると、バケツを海面に下ろして魚を逃がした。
その日の夜――
「リカ、お友達が来てるわよ。」
私、リカはお母さんに呼ばれて二階の自室から玄関へ向かう。
(え、だれ?)
玄関には、見たことのないきれいな女の人が立っている。髪は金色のような銀色のようなキラキラしたストレートロングで、薄いピンクのような瞳、白のこの時期にしては少し寒そうなワンピースを着ている。
(外国の人、だよね?知り合いではいけど!?)
不測の事態に私が固まっていると、向こうから話しかけてきた。
「こんばんは、突然こんな時間にすいません。どうしてもリカさんにお礼を言いたくて。」
(はて???)
「ちょっと意味が分からないんですけど・・・。会ったことないですよね???」
女の人は、ジッと私を見て微笑みながら言った。
「私は、今日防波堤で助けていただいた魚です。」
「・・・・えーっと?ごめんなさい、わかりません。」
困惑する私をよそに、彼女はペラペラと話し始める。
「私、あなたに釣られてしまってもうダメだと思ったのですが、ご親切にも助けていただいて大変感謝しております。つきましてはご恩をお返ししなければ、とこうして伺ったわけです。お礼として、ぜひ!私を食べてください!!!」
「んなっ!!?い、や、私も女ですし、男性ともまだそういう経験もないですし、あの、女性同士がダメとか偏見はあるわけではないですが、そういうことはやっぱり好きな人とでないとできないっていうか、親もいますし、あの・・・。」
「私の分身であるこの魚の刺身をぜひ!食べてください!」
(まぎらわしーな!)
恥ずかしい勘違いをして顔が火照ってくる。
気まずさを隠すために、出された刺身を慌てて口に入れた。もぐもぐ、おいしい。
「この魚を食べると幸せになれるんですよ。素敵な人生を送ってくださいね。では、ごめんくださいませ〜。」
もぐもぐしながら、玄関を出ていく彼女に私も慌てて挨拶をした。
(何だったの?ていうか、これ食べても大丈夫なやつだったかな?もう遅いけど。・・・おいしい。)
喉に小骨が刺さったような違和感があり咳払いをした。そのあとはいつも通り、特に変わったところもなく普通に日々を過ごした、たまの喉の違和感、ただ一つを除いては。
そんな出来事から10年が経ち、今日はあの時一緒に釣りに行った友達の美和と居酒屋で飲んでいる。
「え、この前付き合い始めた商社マンの彼氏、もう別れたの?今度は何が原因???」
美和がニヤニヤしなごら遠慮なく聞いてくる。
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