第十六話 探偵達の覚悟

「「こちらベータ、ボタンの奪取と探偵達の始末を完了させた。予定通り、海岸に集合する」」

黒川の冷徹な報告は、少し狭い船の中で大きく響いた。


浅田「ベータ、よくやってくれた。手筈通り指定のポイントまで移動してもらう。その前に盗聴器とかの確認は怠るなよ」

黒川「「問題無い、出発前に携帯の内部まで確認したし、ボタンの周りに何もついていないことは確認済みだ」」

浅田「そうか、ではボタンの連打を一時的にやめるから車で急いで移動しろ。いいな」

黒川「「ああ」」


ツー.........ツー.........

―愛知県常滑市、鬼崎漁港―

浅田の黒川の通話から1時間後、二台の車が海岸に止まっていた。


黒川「お初にお目にかかるよ、朝日響」

その時の浅田茂はボタン発動用の仮面を身につけていた。

浅田「こちらこそ、早速で悪いが船に乗ろう。追っ手なんて来ないとは思うが」

浅田は先ほどまで乗っていた小型船に目を向け、乗り込む。

アルファ「この船で少し移動した後、用意した大型船で外国に逃げる。入れ」


黒川と浅田、アルファは小型船に乗り込む。

そしてエンジンをかけ、動き出した。



浅田「ベータ、以前約束した通りだがボタンは一度俺が預かる。ただ安心してくれ、金が欲しいときはいくらでも渡すと約束しよう」

黒川「ああ、前も言ったとおりそれで問題無い。私が欲しいのは金だけだ」


小型船は少しずつ海岸を離れていく。

陸から離れ、浅田達に自由が舞い降りようとしている。


その時だった。


突如、真っ黒に染まった海に光が灯った。


アルファ「!!何だ!!」

アルファが船から顔を出すと信じられないものを目撃した。

照らす光は海岸の至るところから出ていて、そしてそれは動き、やがて浅田達の船から暗闇の鎧を取り払った。



「愛知県警だ!お前たちを殺人容疑で現行犯逮捕する!!」



信じられない言葉に真っ先に反応したのは黒川だった。

黒川「馬鹿な!!追っ手が来ないかはなんども確認した!!GPSも全て取り外した!!なぜだ!!!」

黒川の焦りに対し、浅田は冷静と焦りが混じっていた。

浅田「アルファ!速度を全快にしろ!!!早く!!」

アルファ「!!」

小型船から痛快なエンジン音が響き、速度を出し始めたとき......


バンッ!!カァン!!!...........


海岸から放出された鉛玉が小型船のプロペラスクリューを打ち抜いた。

アルファ「......動かない......!!やばい!!」

スクリューが動かなくなったことで、小型船は推進力を失ってしまった。

浅田「くそったれがぁ!!!!」



漁港の海岸で野村巡査部長は中島に感謝していた。

彼の計画が、雄志が今の状況を作っていることを......

2025年、4月10日。中島達の捜査開始日。

―居酒屋、べらよい―

その時、野村と中島は例のボタンについて話していた。


野村「......分かった。君のその条件を聞き入れよう。ただこれは元サークル先輩なりの譲歩ってことを忘れるなよ。.........本当に忙しいんだから」

中島「ふふ、ありがとうございます。先輩......そんな優しい先輩に1つお願いがあるのですが......」

中島は手渡したボタンに指を指す。

中島「そのボタンの内部にとある仕掛けを作るよう依頼したいです。できれば一週間以内に。お願いできますか」

中島の頼んだ仕掛けは次の通りだ。


①ボタンを押した瞬間に野村、中島のスマホに通知が行くようにする

②押した後、GPS機能が作動するようにする

③押すまではセンサーに引っかからない仕組みにする


中島の説明の後、野村は少し怪訝な顔で聞いた。

野村「このボタン、分解してもいいのか?機能を失う可能性も」

中島「確かにその可能性もあります。でも、もし俺がやられてこのボタンが奪われた時のリスク管理は徹底したいんです」

野村「そうか......それなら......いいか」

その翌日野村は仲の良い加工技師に依頼してGPS入りボタンを完成させた。



2025年5月6日

林に電話をかけた後中島は野村に電話をかけていた。


中島「野村さん、今から俺はあえて内通者にボタンを奪われます」

野村「「......例のGPS入りボタンのことか。でもどうする?お前が簡単にボタンを渡そうとすれば作戦に勘づかれる可能性がある。だが現在進行形で人が殺されている現状、おとなしく出動を待つことはできないぞ」」

野村の言葉を聞いてから中島は3秒ほど黙り、説明した。



中島「俺を今すぐ殺さないといけない状況を作ります。殺した後は動き放題なので」



中島の残酷な宣言に野村は強く動揺した。

野村「「中島お前......自分が死ぬなんて......そんな!」」

野村の悲痛な訴えを中島は笑って返した。

中島「俺達だけの命で多くの人が助かるなら十分です。あ、でも......林には本当に申し訳ないな」

中島の言葉は弾んでいたが、少し震えているのを野村は見逃さなかった。

野村「「中島......お前のそういう所は誰にも超えられないと私は思っているよ。お前はやっぱり最高の探偵だ」」

中島「やめてくださいよ!死にたくなくなるじゃないですか。いや、おふざけはここまでにして............先輩、託しましたよ。必ず成功させますから!」

野村「............中島......林......」

野村から静かに涙が落ちる。

この事件が解決できたのは彼らの勇気のおかげだ。

でも、やっぱり......


「生きてて......欲しかったな......!ふぐ...!うぅ」


次回、最終話

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