未利用魚食のパイオニア佐藤文彦
たたみや
第1話
「うわー魚くせー!」
「第一声で言っていい言葉じゃないな安藤君!」
私の名前は
未利用魚食の研究開発を行い、商品化を行うことで海産資源である未利用魚食の促進と地域の漁業従事者に還元したいという思いから会社を興した。
この度、そんな弊社㈱ギョットに新入社員が入社してくれた。
彼の名は
これからの研修で未利用魚について情熱をもって語っていきたいと思う。
この未利用魚食研究開発ラボで。
「それにしても、色んな魚がいるんですね。始めて見る魚ばっかりです」
「無理もない。未利用魚は市場に出回ることすら珍しいからね。ここにいる魚は大抵スーパーで見かけることはほぼないだろう」
「何かブサイクばっかりですね」
「言い方よ! 確かに未利用魚は見た目で敬遠されるものもいる」
「こんなんがキャバクラだったら僕ぶちギレますよ!」
「魚にルッキズムを持ち込まないで欲しいね」
私はついつい安藤君に熱のこもった言葉をかけてしまう。
それで変に誤解されなければいいのだが。
「そんなお魚をどうやって食べられるようにするんですか?」
「そこは魚によって違いがあるけどね。例えばこのミノカサゴ。ヒレの毒性がかなり強いのだが、ヒレを取ってしまえばあとは美味しい身が待っている。うちではこのミノカサゴの身を煮つけにして真空パックで販売しているんだ」
私は安藤君に商品化したミノカサゴの煮つけを見せる。
「おいしそうですね」
「そうなんだよ。ただ、まだまだ知名度が低いから積極的にPRするつもりだよ」
「未利用魚って他にはどういった問題があったりするんですか?」
「そうだなあ、後は小骨が多いとか、骨が固くて捌きにくいなんてのもあるなあ」
「骨のあるやつばっかり爪はじきにされるなんて、現代日本の縮図みたいですね」
「やめてくれよそんな言い方!」
安藤君が嫌味なことを口にするが、私は負けん。
「そんな骨だが、こうやってプレス機にかけるとだな……」
「社長それって……」
「骨チップスだよ。これが結構酒の肴になってね」
「え、何ですか? 笑わないといけないですか?」
「そういうつもりで言ってないよ安藤君」
出来立ての骨チップスを安藤君に見てもらった。
せっかくだから、手に取って食べてもらうのもいいかもしれない。
「安藤君、試しに食べてみるかい?」
「よろしいんですか?」
「せっかくだから感想を聞かせて欲しい」
安藤君は骨チップスをそのまま口に入れ、食べ始めた。
カリカリなので、静かな研究室に咀嚼音がよく聞こえる。
「美味しかったです。お酒と組み合わせるならもう少し辛みがあるといいなと思いました」
「意見をありがとう。参考にさせてもらうよ」
今日の研修が終わりに差し掛かったので、安藤君に感想を聞いてみることにした。
「安藤君、今日この研究所で見たり聞いたりしたことの感想を聞かせて欲しい」
「人も魚もブサイクと無駄に骨のあるやつは敬遠されるのが世の中なんだなって」
「それもうやめてくんない?」
ああ、胃が痛い。
明日からの研修が不安でしょうがない。
未利用魚食のパイオニア佐藤文彦 たたみや @tatamiya77
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