第29話:修理の始まり
水曜日の朝、花かごはいつも通り静かな空気の中で始まった。千代は棚の花を整理しながら、ラジオの音に耳を傾けていた。音楽はまだ穏やかに流れているものの、やはり仮修理の状態では、完全には安定していないことを感じていた。どこかの部品が微妙に狂っているのだろう。
そのとき、店のドアが静かに開き、修理技師が入ってきた。彼は先週、ラジオの修理を頼んだ人物で、千代はすぐにその姿を見て微笑んだ。
「おはようございます。今日はお手数をおかけしますね。」
修理技師は穏やかな表情を浮かべ、千代に軽く会釈をした。彼の手には、ラジオを修理するための道具が入った小さな工具箱が握られている。
「おはようございます。すぐに修理を始めますね。」
技師は、まずラジオの背面を開け、内部をチェックし始めた。千代はその作業をじっと見守りながら、花の束を束ねる手を止めていた。技師は手際よく配線を確認し、微細な部分を慎重に調整していく。その動きには、何年もの経験がにじみ出ていた。
「やっぱり、ここですね。」
修理技師が小さな部品を指差した。千代はその言葉に頷き、少し安堵の表情を浮かべた。
「部品が少しずれていたようですね。これで、音が安定するはずです。」
修理技師は慎重に部品を調整しながら、ラジオの状態を確認していった。千代はその静かな作業を見守りながら、心の中で再びラジオの音が安定することを願った。
「すぐに動き出しますよ。」
しばらくして、修理技師がラジオをテストするために電源を入れると、穏やかな音楽が再び流れ始めた。音に乱れがなく、静かに響く音色が、店内に広がっていく。千代はその瞬間、思わず深く息をついた。
「ありがとうございます。」
修理が完了したことを確認し、千代は改めて感謝の言葉を伝えた。修理技師は軽く微笑んで、道具を片付けながら答えた。
「これで大丈夫です。音楽がまた、心地よく流れるようになりますよ。」
ラジオから流れるメロディーが、店内に新たな命を吹き込んだ。その音に包まれて、千代は心からの安堵を感じることができた。
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