第12話:母の足跡を追って
男性の話を聞き終えた千代は、胸の奥に温かなものが広がるのを感じていた。母が遺した青い薔薇は、ただの花ではなかった。それは誰かの心を救い、希望を灯す力を持っていたのだ。
「母は、ただ花を売るだけではなく、お客様の心に寄り添っていたんですね…」
つぶやくように千代が言うと、男性は優しく頷いた。
「そうです。お母さんの花には、人を支える温かさがありました。きっと、あなたにもその想いが受け継がれていると思いますよ。」
その言葉に励まされるように、千代は小さく微笑んだ。しかし同時に、青い薔薇に込められた母の思いをもっと知りたいという気持ちが強く湧き上がっていた。
「あの…もう一つお聞きしたいのですが、母は青い薔薇について他に何か言っていませんでしたか?」
千代の問いに、男性は少し考えるように眉を寄せた後、静かに答えた。
「そうですね…お母さんはこんなことを言っていました。『青い薔薇は簡単には咲かない。その人の本当の願いが現れたときにだけ、美しい色を放つ』と。」
その言葉を聞いた瞬間、千代の心に幼い頃の記憶がよみがえった。母が夜遅くまで作業をしている姿、試行錯誤を重ねて新しい花を育てていた姿…。その背中には、何か深い使命感があったように思える。
「簡単には咲かない…」
千代は母が残した手帳をもう一度読み返し、そこに隠されたヒントを探そうと決意した。母がどのような思いで青い薔薇を生み出したのか、その足跡をたどることが今の自分の使命のように思えたのだ。
「ありがとうございました。お話を聞いて、少しだけ母のことがわかった気がします。でも、まだ私にはやるべきことがあるようです。」
千代の決意に満ちた声に、男性は静かに微笑んだ。
「きっとお母さんも喜んでいるはずです。これからも頑張ってください。」
そう言い残して、男性は店を後にした。その背中を見送る千代の心には、次の一歩を踏み出すための力が確かに芽生えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます