第2話:無口な青年

青年の名は三浦光彦。20代半ばで、近くの工場に勤めているらしい。無口な彼が「花かご」に現れるのは、月に数回。毎回、彼は特定の花を買うだけで、千代との会話もほとんど交わさない。


「すずらん、ありますか。」

その日も、光彦は短い言葉で注文した。

「はい、ちょうど新しいのが入ってますよ。」

千代は店の奥から白いすずらんの花束を取り出し、包み紙で丁寧に包んで手渡した。光彦は代金を支払い、軽く頭を下げて去っていく。


「まったく愛想のない子だねぇ。」

渡辺が八百屋の軒先から声を上げる。

「そうかしらね。必要なものだけ買っていくのも、悪くないと思うわ。」

千代は笑ってそう答えたが、心の中で問いかけていた。このすずらんは、一体誰に渡しているのだろう。


その夜、千代は一人、店のラジオを聞きながら考え込んだ。

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