第19話 呪い
イジメをする明確な理由など無かった。
ただ見ててイライラするから、なんとなく…。
最初は、からかうくらいだったが、それがだんだんとエスカレートしていった。
俺と川口と津川と山田の4人は、下山カナミをイジメていた。
津川と山田は女子だから、クラスの女子達に下山を無視するように命令した。
2人は実質、このクラスの女子を仕切っていたから、みんな戸惑いながらも無視を実行した。
俺と川口の男子は、下山本人に聞こえるように悪口を言っていた。
教科書にラクガキ、上履きを隠す、下山が何かミスれば罵倒する。
子供じみた嫌がらせを連日やっていた。
罪悪感なんて無い。
ただのストレス発散という理由だけでやっていた。
しかし……
下山が自殺した。
俺は自分のしたことの愚かさと残酷さを、この時知った。
だが、川口も津川も山田も、俺のような感情にはなってないらしい。
「葬式に行かないのか?」
俺が3人に聞くと
「はぁ?なんで?」
「今更謝りに行くの?」
「逆に行って、下山の親から責められたらイヤじゃん」
信じられない答えが返ってきた。
いや、俺もイジメの首謀者なんだから、今更かもしれない…。
でも、俺は行かずにはいられなかった。
葬式に行った俺は、周りからヒソヒソ言われているのが解った。
「よく来れたよな…」
「どういう神経してるんだろ…」
「今更反省とかしてるの?」
何ひとつ言い返す事はできない。
下山の両親は、俺を睨見つけるている。
焼香を上げた俺は、下山の遺影を見つめ
『ゴメン、下山…』
そう心の中で呟き、足早にその場を去った。
今更許されるとは思っていないが、自分のしてしまった愚かさに対して、何もせずにはいられなかった。
「自分だけ良い子ちゃんになるなよ」
「私達同罪なんだからさ」
「イヤな事は早く忘れよ」
3人には後悔や反省という気持ちは無いようだ。
それから3年の月日が流れ、俺達は久しぶりに会う事となった。
「ここだけの話、俺宝くじ当たっちゃったんだよ」
川口は小さな声で言う。
「え!マジで!いくら?」
津川か食いつく。
「それは言えないなぁ」
「ケチ!でも、私もここだけの話、インフルエンサーの彼氏できたんだよね」
津川も小声で言う。
「スゴイじゃん!まあ私も今の仕事で巨大プロジェクトのリーダーになれて、給料も爆上がりなんだけどね」
自慢気に話す山田。
どうやら3人は、ここ最近幸せな生活を送っているようだ。
「オマエもなんか良いことあったか?」
川口が俺に聞いてきた。
「いや、俺は何も無いよ」
事実、俺は平凡でつまらない毎日を送っていた。
「マジで?私達だけ良いことあったってこと?」
「やっぱり、下山に対して変な罪悪感持ったから幸せになれないんじゃない?」
「そうだよ、過去に囚われてるから、幸運が訪れないんだよ」
確かにそうかもしれない。
俺はあの出来事が頭から離れる事は無く、ずっと罪悪感に苛まわれている。
そのせいで、俺は昔の明るさが無くなってしまっていた。
「俺達には、これからたくさんの未来があるんだから、明るく生きようぜ」
下山にも未来はあったはずなのに、それを閉ざす原因を作ったヤツのセリフでは無いと思ったが、俺がそれを言える立場でも無い。
「そうだな…」
力なく、そう答える事しかできなかった。
それから半年後。
川口が死んだ。
大金を手に入れた川口は、豪遊をし怪しい人物との絡みもあったようで、金銭トラブルから、殺害された。
それから一ヶ月後、津川が殺された。
付き合っていたインフルエンサーの男は、女絡みにだらしなく、彼女である津川に恨みを持った女が、殺害を実行したらしい。
その一ヶ月後に山田が事故に遭い入院した。
俺は山田の見舞いに行った。
「下山の呪いだよ…」
山田は怯えた表情で言う。
「何言ってるんだよ」
「見たのよ!私が事故にあった時、下山がいたのよ!あの頃の制服着た姿で!」
「見間違いだろ」
「川口達から聞いてないの?」
「何を?」
「川口も山田も、下山を見たって言ってたの!
その後に2人とも死んだのよ!」
「まさか…」
「下山は、必ず私を殺しに来る…
次は私なのよ…」
俺は何も言えず、病室を後にした。
「今更復讐だと言うのか?」
確かに、下山をイジメた主犯格の3人が立て続けに不幸になっているのは偶然にしては、出来過ぎだと思うが…。
そして、数日後に山田が亡くなった。
原因不明で病室のベットで死んでいたらしい。
亡くなった時の表情は、何か恐ろしい物でも見たかのように、ひきつっていたとのことだ。
俺は下山の墓参りに来た。
「お前の仕業なんだろ…。
3人に幸せの絶頂から、ドン底に落として恨みを晴らしたんだろ…」
だが、俺は幸運も訪れてなければ、不幸な目にも遭ってない。
罪悪感を持ち続け、日々、下山に謝り続けた俺は許されたのだろう。
俺は自分だけが許されたと、安堵した。
帰り道、俺はトラックに轢かれた。
薄れゆく意識の中、俺は声を聞いた。
「許すわけないだろ」
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