第7話 電車
高木剛は仕事を終え終電車に乗っていた。
ハードスケジュールによる日々で、帰りはいつも遅かった。
今日はいつもより更に仕事が長引いたせいで終電に乗る羽目となった。
「さすがに人はほとんどいないな」
電車内は高木以外二人ほど乗っている程度だ。
上り電車のため、乗客も少ない。
そのうち高木は疲れからウトウトしはじめた。
高木が降りる駅は終点に近い駅で、まだ当分時間がかかることもあり、高木は寝てしまった。
「あっ」
高木は目を覚ました。
外を見ると、まだ自分が降りる駅ではなかった。
「よかった。乗り過ごしてなかったか…」
目を覚ました高木は車内を見渡した。
「あれ、俺一人だ」
高木の見渡した範囲に乗客は誰もいなかった。
「貸し切りだな」
そんなことを思いながら高木は伸びをした。
「!っ」
何気なく正面の窓を見た高木の目に女が映った。
高木は車両橋にある三人掛けの座席の一番端に座っていた。
窓に映った女は高木の座っている座席の隣の隣に座っている。
高木は、バッと横を見た。
窓に映っている女の位置に女はいない。
「そんなばかな…」
高木は再び車内を見渡したが、やはり高木以外誰もいない。
席を立とうとしたが、体が動かない。
「こんなことが…」
高木は、ただ正面の窓に映る体が動かないことに慌てる自分を見ることしかできなかった。
そして、やはり女は窓に映っている。
女は窓に映っているのに、車内にはいない。
すぅ、っと女が立ち上がった。
「ひっ」
高木は動かない体を必死で動かそうとした。
しかし体は動かない。
女はゆっくり高木に近づいて来た。
俯いていて髪が長いため、顔は髪がかかっていて見えない。
しかし、不自然な歩き方と雰囲気からこの世のもので無いことは容易に解る。
「うっ…」
高木は声を出そうしたが出ない。
ずり…ずり…
女は高木に近づいてくる。
車内に女はいない。
しかし、窓に映る女は確実に高木に近づいている。
窓に映る女は高木の正面に立った。
「ひいいいいい」
高木は、ぎゅっと目をつぶった。
どれくらいの時間、高木は目をつぶっていたか解らなかった。
キィーーーーーッ
電車の急ブレーキの音がしたので高木は、思い切って目を開けた。
「うわああああああああああああああああ」
高木のすぐ目の前には白目をむいた女の顔があった。
真っ青な顔色だ。
そして高木はいつの間にか線路の上にいた。
「なっ、なんだよ、ここは…
!っ」
プアーーーーーーンッ
まぶしい光と共に警笛が高木に鳴らされた。
電車が高木に向かって突っ込んで来る。
「うわああああああああああああああ」
「ハハハハハハハハハハハハハハハハ」
白目の女は高木の叫び声とかぶるように、無表情で甲高い声で笑い出した。
キイイイイィィィィィィィィィィィッッ
ぐっしゃぁ
激しいブレーキ音の中、高木の肉体が砕け散る音がした。
そして、白目の女はその急停止した電車に吸い込まれるように消えていった。
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