第4話
「じゃ、わたしこっちだから」
「お、おう」
結局ろくに話なんてできなかった。
俺は自分の席につき、バックの中を漁るが、弁当は見つからなかった。
朝は入っていたはずなので、真島が持って行ってくれたのだろう。
教えてくれればいいのに、と思ったけど、あいつなりの気の使い方なのかもしれないと思い、俺は急いで体育館裏へと走った。
「おい、せっかくのチャンスだってのに、一人で帰ってきたのか?ったく、無駄にしやがって」
体育館裏では、俺の弁当を真島たちがどのおかずを食べるかで言い争っていた。
俺はその弁当を容赦なく奪い取ると、代わりに真島たちの弁当の中から適当なおかずを箸でつまみ、口に放り込んだ。
「あ、それ俺楽しみにしてたのにっ‼︎」
この中で一番食い意地が張っている三輪が、仕返しと言わんばかりに、俺の弁当に箸を突き出してきた。
動き自体は鈍いので俺はそれを交わすと、どかっと座り込んだ。
「変な気使わなくていいっつーの。ゆうて、時間潰しだったんだからよ。俺がここで寝ようとしたらあいつが先客でいた。それだけさ」
「その割には楽しそうに話してたじゃねーか」
三輪が茶々を入れ、それを煽るようにして他の二人も俺を煽り立てる。
「うっせーな。別にいいんだよ。そんないうんだったらお前らが話すればいいじゃんか」
「えーやだよ。俺女子と話したことないもん」
真っ先に否定したのは真島だ。
「俺だってそうさ。けど一回話してみーや。案外楽なもんだぞ?」
俺はマキとは初対面だったが、わりと話しが合って楽しかった。
なのに教室に置いてきて、迷惑じゃないかと今更ながら思ってしまった。
「わり。やっぱ迎え行ってくるわ」
俺は自分の弁当に手をつけるなよと忠告してから、マキの教室へと向かった。
見つかるかどうか心配だったが、マキは教室にいた。
俺は話しかけようと教室に入った時、マキに一人の男が話しかけた。
自然と足が止まり、その二人の会話を聞く。
「なぁマキ。金貸してくんね?今月カツカツでさぁ。な、いいだろ?」
「え、ちょっと待ってって。わたしまだお金返してもらってないよ?先月も、わたしに1000円借りたばっかじゃん。ほんとに返してくれるの?」
親しい間柄なら、俺は黙って教室を出ていただろう。
周りからの評判は、あまり良くないはずの俺と一緒にいるところを見られると、マキにも迷惑がかかるかもしれない。
けど今話している男とマキの関係は、そう親しくもなく、かえってマキが嫌がっているようにも思える。
「そう固いこと言うなって。ここに入ってんの知ってんだからよ」
男はマキの鞄を漁り、財布を取り出した。
流石に見過ごせず、俺は男が取り上げた財布をさらに取り上げた。
「テメェのもんじゃねぇだろ?何触ってんだ?」
不良グループをボコボコにする時に覚えた、声をオクターブ下げてものを言う脅しは、普通の神経をしている人にとっては、それだけで怯えてしまうだろう。
男は一瞬怯んだようだが、それでも人に金を迫るだけの威勢を持っていただけあって、それだけでは引かないようだ。
「誰だテメェ?横から首突っ込んでんじゃねぇよ」
俺が持っている財布を取り上げようとしてくるが、不良どもと比べたらあまりにも鈍い動きに、財布を避けると同時に、鳩尾に膝を入れた。
「ゲホッゲホッ。何しやがる‼︎」
その場に崩れ落ちた男が苦しそうにそんなことを言い出すので、俺は豪快に笑ってしまった。
「てめぇ、なにもんだ。ゆるさねぇ…」
下から睨まれるのは全然威圧感がないんだななどと思いながら、一応名を名乗っておく。
「俺か?俺は諏訪部だ。この苗字は珍しいからこれだけでわかるだろ?」
俺の名前を聞いた男は、たちまち顔が青ざめ、恐ろしいものを見たかのように、逃げ去っていった。
実際、俺は周りから見れば恐ろしいのかもしれないが……
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