第3話

それから二人は、どうでもいい雑談をして時間を潰した。


家はどこら辺にあるのか。


——ここをちょっと言ったところに、川があるでしょ?わたし、そこの近くなの


好きな人はいるのか。


——え、やだなぁ〜。もしかして狙ってる?わたしはね〜いるよ〜、憧れてる人。とってもかっこいい人なんだよ〜


嫌いな教師は誰なのか。


——わたしは荒川先生が苦手かな〜。ほら、あの人って黒板書くの早いから追いつけなくってさ。急に当てられると、まだそこまで板書終わってなくて焦っちゃうんだよね〜


なんで授業サボるんだ。


——それシュー君が言えた口〜?まぁそうだなぁ〜わたしってこう見えて頭はめちゃくちゃ悪いんだよね〜それでなんとかみんなに追いつこうと頑張ってるんだけど、なかなか上手くいかなくてさぁ〜。それでやんなっちゃった


——逆にシュー君はなんで授業サボったの?


俺は元から真面目に授業受けるのが嫌いでさ。それでいて教師は俺を指名して答えさせるだろ?もうそれがうざくって


——いつ頃からこの場所に来るようになったの?


いつだっけかな。中2の夏くらいだった気がする。そん時も荒川の授業でさ。その時に集団で4人で抜け出したのさ。くだらねぇだろ?けど俺らにとってそれは、とても達成感と解放感があるものだったんだ


——ふ〜ん。その人たちとは今も?


あぁ時期来るだろ。そろそろ昼時だしな。マキにも紹介しようか?


——うん。お願い。


「やっぱここかよ」「お?もしかしてできちゃってたり?」「やってんねえ〜新平ももうガキじゃねぇってか?」


噂をすれば、とでも言わんばかりに現れたのは、俺と同じクラスの3人だ。こいつらとは荒川の授業を一緒にばっくれた同士だった。


「おうきたか。そんじゃ紹介するぜ。こっちはB組のマキ。で、こいつらが、右からデケェのが三輪、真ん中のちっこいのが荻窪、最後に左にいるヒョロが真島」


教師の中では、俺を合わせたこの4人が、不良4人組として、警戒対象になっている。


「あ、君たちが不良4人組だね。わたしたちクラスでも度々話題になるよ。そっか、シュー君はその一人だったのか」


どうやら、俺たちのことはかなり噂になっていたらしい。


それがいいことなのかどうかはさておき、俺たちは互いに顔を見つめあって笑った。


「へぇ〜俺たちの噂か。どんな噂なんだい?やっぱり、俺様の武勇伝だったりする?」


「んなわけねぇだろ。テメェなんかより俺の方がかっこいいだろ?」


「「それはない」」


真島と三輪がふざけ、俺と荻窪で総ツッコミ。


やはり1年もの付き合いとなると、こいつらとは合わせようとしなくても、次第にポジションというものは決まっていくものだ。


「そうだなぁ〜。例えば校舎のガラスを石投げつけて割ったり、どっかの不良グループをボコボコにしたり、教師に恥かかせてそれを笑い物にしたり。君たちってほんとに面白いなぁってわたしは思うよ」


校舎のガラスを割ったのは俺と真島。


不良グループは全員で仕掛けた。


教師に恥をかかせているのは荻窪と三輪だった。


それぞれが、それぞれのことを思い出し浮かれていると、マキが俺に話しかけてきた。


「わたしお腹すいちゃったなぁ。ねぇ、シュー君も弁当教室でしょ?一緒に取りに行かない?」


「あぁ、そうだな」


俺はマキと一緒に立つと、校舎へと向かう。


ヒュ〜などと、真島が鳴っていない口笛を鳴らすが、俺はそれをガン無視して、歩みを進める。


「あの人たち、面白い人だね。わたし、もっと怖い人たちなんじゃないかって思ってた」


確かに、不良グループをボコボコにしたという話があがってたくらいだから、そう言ったイメージを持たれるのは不思議ではないのかもしれない。


けど俺たちの本質はそこにはないのだ。


俺たちの本質は、この世の中のつまらなさにある。


それは例えば、つまらない授業だったり、口うるさい親だったり、何もしていない時の無力さだったりだ。


学校、家、自分の部屋。


どこへ行っても、つまらないものばかりで、何もやる気が起きない。


そんな時に、あいつらと出会った。


同じような境遇で、同じような生活をしている俺たちは、すぐに打ち解けた。


そして今では、不良4人組として、名を上げるまでになったのだ。


「あぁ、あいつらといると、俺は本当の俺を見つけられている気がする。何も隠す必要もない存在。何も気を使わなくていい存在。俺にどっちあいつらはそういう奴らだ。多分、あいつらも同じだと思う」


俺がいつになく真剣な顔でもしていたのだろう。


肩を叩かれ、振り向くと、頬に指が刺さった。


「なにすんだ」


「そういう関係、わたし憧れるなって。気を使わなくてもいい人なんて、わたしにはいないから……」


振り向かせたくせに、俯いてばかりで俺の顔をろくにみやしない彼女の声は、風が吹けば消えてしまいそうなほど、小さかった。


それから教室に着くまでは、ただただ気まずい雰囲気が続いた。

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