猿と野戦陣地
「……なんだ?あれ。」
三人がひたすら街道沿いに歩いていると、今度は陣地のような場所に出くわした。
周囲の街道などが削られて即席の堀が構えられ、陣地を囲む木の柵にテントに見張り櫓。そして大量の弓を構えた猿。もう矢は装填済み。
数え切れないほどの矢が、雨のように三人に降り注ぐ!
「うわぁぁぁ!」
凄まじい量の矢に襲われる3人。
慌ててカールが斧で、ルイが拾った盾で前に出て矢を防ぎ始めたが、武器が壊れるよりも前に矢を防ぐ衝撃で後ろに倒れそうになる。
一瞬だけ矢の勢いが緩む。指揮官らしき猿が三人とその様子を交互に見て、指示を出す。
「奴らはまだ生きているぞ!今度は毒矢を使え!」
それと同時に“アーチャーモンキー”たちが矢をつがえ、彼らに向かって放つ。今度は、鏃に緑色の液体が塗ってあった。
「やっべ!これかすっただけでもヤバそうだ!ルイ、おまえのあれ、魔法ってのでなんとかなんないか?」
「名前ぐらいちゃんと覚えろ馬鹿!『
3人を青色半透明の壁が覆い、飛んできた矢を弾き飛ばす。だがそれは気休め程度にしかならなかった。みるみるうちに結界にヒビが入る。
「おいおい、全然役に立ってねえじゃねえかよ!」
「うるせー!おんなじ魔法に魔力注ぎ続けるのにどんだけ集中力いると思ってんだ!」
「2人共喧嘩しないで!」
いがみ合っている二人をよそに、矢の勢いが更に強まる!
「一旦そこの木に隠れるぞ!」
それを合図に三人は散って森の木の影に隠れた。
「奴らが隠れたぞ!探せ!」
指揮官の怒号と共に、“アーチャーモンキー”たちが散らばって森林へと走る。
「一旦別れましょう!」
「「おう!」」
「…っていったはずなのに、なんでこうなってるんでしょうね……。」
「むしろおれが聞きてえよ!」
偶然という名のストーリーを考える上での都合で逃走中に合流してしまった二人は、そのまま一緒に“アーチャーモンキー”たちから逃げ切った後木の上で休憩していた。
(しーっ、見つかっちゃうでしょう!)
(誘発したのはそっちだろうが!突き落とすぞ、てめー。)
(いいから今は黙ってください!)
上から突然降ってきた大声に“アーチャーモンキー”たちふが気づき、少しの間周りを見まわす。もちろん上も見たのだが、二人の姿は木の枝と葉っぱの影に隠れているため見つけられないようだ。“アーチャーモンキー”たちは立ち去っていった。
「ふぅ……それで、なんであなたがここにいるんですか。」
「だからこっちの台詞だ!なんでバラバラに散らばったあと何も考えずまっすぐ逃げてきたってだけで合流すんだよ!」
「それ、障害物とかどうしたんですか?」
「え?全部飛び越えたに決まってんじゃんそんなの。」
いや、ここまで来るのに高さざっと5メートル近くの岩とか結構あるんですが。
(あのバカ共、ちゃんと逃げ切ったかな?)
“アーチャーモンキー”の追手があたりを見渡しているすぐ下の地中で、ルイは2人を自然な流れで罵っていた。二人に比べて身も蓋もない言い方をすると知能指数は高いため、独り言を喋ってすぐ近くの“アーチャーモンキー”たちに居場所がバレかねないような真似はしない。
(あの二人の性格的に、カールはテキトーに突っ走るだろうし、エミーは全避けだろうしで、ルート見た限り十中八九合流しそうなんだよなー。合流して喧嘩始めて見つかってなきゃいいけど。)
「だめです、見つかりません!」
「馬鹿者!よく探せと言っただろうが!貴様の目は節穴か、ピック!」
(おーおー、どの世界にもパワハラ上司っているもんなんだなぁ。)
無駄なところを楽しんでいるルイだった。
「もういい、さっさと次のポイントに行くぞ!わしは先に本隊に戻って報告してくる。お前は次のポイントに行くまでの間で奴を探し出して始末しておけ!」
「りょ、了解しました!」
“アーチャーモンキー”たちが二手に分かれてその場を立ち去る。
…数分後、もう1回魔法で地面を掘って、ルイは地上に顔を出した。
「しっかし、このままじゃ埒が明かないな。……よし!」
何かを思いつき、ルイは森林の方へ走っていった。一旦残りの2人と合流するために。
「おまえ、正気か?」
合流した後三人でどうやって“アーチャーモンキー”たちを倒すかを、3人は話し合っていた。
「私の魔法だけで十分だと思うんですが……。」
「奴らは陣地の外にも散らばってる。お前のその魔法を打ち込んだら奴らは警戒して二度と戻ってこなくなるだろうからな。ここでまとめて仕留める必要がある。」
そう言うとルイは、適当な枝を拾ってきて、作戦を2人に伝え始めた。
「まず僕達があいつらの陣地に潜り込んで……」
数分後、森の木の間を通って“アーチャーモンキー”たちが陣地に引き返そうとしていた。
「奴らが現れたぞ!どうやら俺等の本陣にいきなり襲いかかったらしい!」
「畜生!まあいい、このまま挟み撃ちにしてやる!」
陣地に到着した彼らは、その中央で暴れている二人の少年を確認し、弓を構えた。
「ルイ!他のとこ行った奴らが戻って来たぞ!さっさとトンズラしようぜ!」
「まだだ!数が少なすぎる!主力はまだ戻ってきていない!」
「こんなに矢が降ってくる環境下から逃げることも許されないってのか!くそが!」
そう言いながら、足元の石を拾って“アーチャーモンキー”の内の一匹の顔にむかって投げつけるカール。石に当たった“アーチャーモンキー”は口から血をふきだして倒れる。
「よっしゃあ、ヒット!」
「甘いなカール、俺は3連だ!」
そういうルイの方を振り向くと、ちょうど投げた石がうまいこと跳ね返って3体の“アーチャーモンキー”たちを脱落させているところであった。
「まじかよ、3連なんて都市伝説かなにかだと思ってたぜ。」
「!カール、上!」
「え?」
ルイがカールの首根っこを掴んで手近なテントに引きずり込んだ直後、上から土砂降りの雨ならぬ矢が降り注ぐ!
「うそだろ!あっぶねー。」
「この数……やはり、主力が戻って来たな!」
「よし、やるか。ちょっと待ってろ!」
そう言うや否や、地面に穴を掘り始めるカール。スコップかシャベルを持ってくるべきだったと後悔している。
テントに入ったきり動かなくなったルイたちを見て不思議に思った“アーチャーモンキー”たちが、隊長らしき者を先頭にテントに近付く。
「よしっ、来たぞ。『
テントの中からまばゆい光が溢れ出る!“アーチャーモンキー”たちは眩しさのあまりその場で固まってしまった。
「よし、もういいか?」
「こっちはオッケー、後は穴に飛び込むだけだ!」
「よし来い!すぐに出口塞ぐぞ!」
陣地から遠く離れた巨木の枝に、エミーが立っていた。
「あ、合図。よし……!」
彼女が杖に魔力を込め始める。杖の先端が光りだす。
「いっけぇー!『
杖の先から、光り輝く弾が飛び出し……
あっという間の出来事だった。
彼女の放った光の弾が陣地の中央にいる“アーチャーモンキー”の隊長の頭に着弾し、辺り一帯の物体全てを吹き飛ばすまで、10秒ほどであった。
「いやー、それにしてもホントぶっ飛んだ作戦思いつくよな、こいつも。」
「あはは、流石に脱出用の穴を爆風まで通ってきた時は焦ったけどね。」
(それ以前になんで陣地一個吹き飛ばせる爆発から逃れられる距離の穴をあの短時間で掘れたんですかね?)
三人は去っていった。かつて立派な陣地のあったクレーターもどきを後にして。
*
今日の戦利品
弓×2(戦闘時に入手) 攻撃力:矢×2 爆発から免れた頑丈な弓。攻撃力は矢の質しだい。→ルイ、カールがそれぞれ装備
矢×500(戦闘時に入手) 攻撃力:4 そのへんにある木製の矢。 意外と丈夫でうまくやれば分厚い鎧も貫けそう。
魔法の矢×300(戦闘時に入手) 攻撃力:? 魔法をこめることのできる不思議な矢。魔法の種類によってやじりの色が変わる。
毒の矢×200(戦闘時に入手) 攻撃力:7+1/分 やじりに毒を塗った矢。当たった相手に毒ダメージを与える。毒は多分ヤドクガエルのそれ。
バナナ(陣地から盗んだ) 6HP回復 全然熟してない真っ黄色のバナナ。食べるにはセットでヨーグルトが必須。
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