ある日森の中へ・・・


 その日も雨が降ってた。

 6月だから仕方がない・・・でも雨の憂鬱にナンカ苛まれて・・?

 半ばかったるい気持ちを抑えて閉店の準備。

 激しく雨が窓を叩く・・・・

 時期早すぎる台風接近中だから当然嵐となる・・・・

 風音が不吉な旋律を聞かせて・・・・・・

 木の葉がくるくる飛ばされて闇の中を舞う・・・・・

 マスターはカウンターの向こう側でサーバーを磨いていた。

 壁にかけられた時計が8時を指し示したとき不意に電話が鳴る・・・・。


 マスターが受話器を取り上げる音・・・・


 ヘッドライトの光が雨に濡れた窓を不意に反射させた・・・


 インスピレーション・・・・不穏・・・。


 何処かで見た・・・?なにか感じた気分を知って・・・・


 窓の外・・・・なんか動いた・・・?


 神経質かも・・? 今の俺って?


 近づけば火傷をする・・・・・


 しかし思いは意に反し、それに触れたいと感じて・・・


 電話しているマスターの声が何だか遥か遠くのほうで聞こえてくる気がした。

 気を取り直してテーブルを拭き終えると同時に、受話器を置く音が聞こえた。

 「砂山・・・・。ちょっといいか?。」

 マスター何だか意味深な顔・・・・・・

 カウンターの薄明かりが何だか陰気な影を落として見えて不気味・・・・・

 何かな・・・・・(・_・;)

 カウンターに近づくとマスターは金庫の中の指輪を取り出して言った。


 「どうやらこの間の指輪を忘れていった女の人らしいんだ・・・・。

 コレを届けてほしいと今電話があってなあ・・・・。

 悪いんだがこの指輪を届けてきてくれないか・・・・・?」


 マスター・・・黒い薔薇の指輪を目の前において見せた・・・・


 指輪見たときなんか視界がゆがんだ・・・


 慌てた素振りの俺は真顔に返り少し不審気味に聞く・・・


 「それは良いですけど・・・・場所ってどの辺なんですか?。」

 

 「何だか遠くの人みたいだぞ・・・・。

 場所は今ファックスで送るといっていたが・・・・。」


 マスターはそう言って頷き黒い指輪を眺める・・・・。


 不意に電話が一回鳴・・・・ブぅーンと印刷するモーター音が・・・・・


 何だかいつもと違う高い音・・・・


 バイオリンの不吉な旋律に聞こえなくもない気がして・・・・・


 不安な気持ちになる・・・・


 「郊外みたいだなあ・・・・・。こりゃあ山の中みたいらしいぞ~・・・。」


 背を向けて転送内容を眺めるマスターの声も何だか遠くに聞こえる

 気がした・・・・・。



 電話のあった次の日の月曜日・・・・・

 ドライブしながら指輪を届けることにした。

 無論学校には適当な言い訳をして休むことにしてしまったし・・・。

 それに何だか久々の遠乗りは開放される気分だった。

 堅苦しい街から抜け出してバイパスに乗って郊外へ・・・・。

 夏へと変わる木々や草の色・・・日の光を浴びてエメラルド色・・・・・。

 風は湿っているけど街の空気よりはよっぽどまし。

 交通量の多い二車線の峠道を走りトンネルを抜ける。

 道路沿いの大きな川は日の光を受けて緑色に光る。

 観光客相手の小さな食堂兼貸し釣竿屋・・・・・

 田舎の店がロードサイドに軒を連ねてる・・・・

 左に見えてきたダムの大きな湖が印象的・・・・

 ちょっと休憩していこうか・・・・?。

 スピードダウンして観光客向けの公園入り口に入り込む・・・・。

 駐車場はガラガラ・・・・・。

 平日だから当たり前か・・・・・・?

 スクーターから降りた・・・

 初夏の光りを投げ返す深い翠色をぼんやり見てる・・・・・・

 「連れに教えてあげようかな・・・・。何だか魚が居そうなところだし。」

 何気なくケイタイを取り出して見た。

 まだ10:00になったばかり。

 手すりに背を向ける・・・・

 何だか気持ちいい風を受けているうちに眠くなってきた気がする。

 欠伸してダム湖の周りの歩道に据えられた、観光客用のベンチに座り込む。


 「昨日も寝るの遅かったから・・・ちょっと寝ようかなぁ~。」


 平日とあってか周りには誰もいない・・・・


 何だか気を許してしまってベンチに体を横たえた・・・


 風が気持ちよくて・・・。


 鳥の声が綺麗・・・・・。


 木漏れ日のひかり・・・・・


 時々道路のほうから小さく聞こえるエンジン音。クラクション・・・・・。


 木々が擦れ合い葉っぱをカサカサ鳴らす・・・・・・。


 あー・・・・何だか・・・・


 ほんとに気持ちいい・・・寝てる暇ないんだけど・・・・


 


 ・・・・誰かに起こされたような気がして目を開けた・・・・


 ベンチの上から転げ落ちそうになって冷や汗。

 「眠りすぎたかな・・・。」

 相変わらず初夏のうららかな風と陽気が体を包み込んでいる。

 あわてて携帯の時計を見てみると10時半を少し過ぎていくところだった。

 「なんだ・・・・。」

 頭を垂れてため息・・・・・

 その場に立ってポケットに手を突っ込む・・・・。

 何か違和感・・・・?。

 鍵・・・・

 鍵と・・・・・

 あれ・・・・?

 おかしいな・・・・・

 指輪の感触が・・・・・無い・・・・・(・_・;)

 不安感を押さえて何とかその場を探してみたが見当たらないし。

 盗まれた・・・・・?

 まさか?

 出かけるときにしっかり指輪をホルダーに通した・・・・・

 だから・・・・鍵と一緒に出てくるはずだし・・・・。

 ベンチの下からあちこちを探してみた。

 考えられる出来事を片っ端から思いついてみたけどやっぱり

 見つからないものは見つからない。


 慌ててスクーター停めた駐車場まで走る・・・


 バイクの座席下のトランクをみたけどもやっぱり無かった。

 頭を抱えて湖を見ながら少し考えてみる・・・・・。

 「どうしようー・・・困ったな本当ーに・・・。」

 不安に駆られて少しいらいらしてきたけれど・・・・・

 途方にくれてるのもいたずらに時間だけが過ぎていくだけ・・・

 

 「 あきらめよう 」


 トランクルームを探しているときに不意に東京のマスターのところに

 電話を入れようと思ったけど・・・?。

 やっぱり自分が悪いんだし、マスターには迷惑かけられないと

 思ったから止めておいた。

 スクーターに跨るとキーを捻ってスターターを押した。

 眠ってた愛車は目を覚ますと、俺乗せて再び峠道を走り出す。

 先ほどまでのツーリング気分は吹っ飛んでしまった


 コレじゃあ話にもならない・・・・


 逃げても話にならないし・・・・


 別に盗んだわけじゃないし訴えられることもないけど・・・・


 どうすんだよ俺・・・・

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