AIで故人を蘇らせる話
いずも
前編
「では、こちらがAIで再現した義理のお父様のデータが入ったチップになります」
恭しく受付の女性が小指の爪ほどのマイクロチップを男に差し出す。プラケースに入ったそれに印字された名前を確認して、間違いないと彼は受け取った。それからいくつか形式的なやり取りを交わして、男は店を後にする。
AIによる故人の再現が可能になったのは西暦2028年からさらに10年が経過してからのことだった。どこかの国の大統領が再選を果たすために開発を急がせたとか、あるいは最高指導者が権力を維持するために自身のコピーとして作らせたなどと噂が飛び交ったが真相は定かでない。
監視カメラや通話のデータなど、ありとあらゆるデータが集積され個人を特定することは容易になった。それどころかSNSなどから思想信条なども取り込まれ、AIによって個人を再構築することは意外にもたやすく行えた。
しかし、本来であれば2028年に完成予定だったその計画は謎のハッカー集団によってデータがクラッシュされる。復旧を試みるより新たなデータから再構築した方が早いと判断され、個人を再現できるデータの蓄積を再開してから10年の年月を費やしたことになる。
――復元が完了しました。
モニターには簡素な文字列が浮かび上がっている。あえて感情移入しすぎないようにと考慮しての表現らしい。
しばらくして、リモート会議のような荒い画質の向こう側に一人の男性が映し出される。
「こんにちは、お義父さん」
生身の男が話しかける。ややあって、画面の向こうから反応がある。
「……キミは、誰だ」
「はじめましてですね。貴方の義理の息子です」
「――私には、妻も娘も居ないはずだが」
再現された男を見て、不敵な笑みを浮かべる。
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