第23話

砦を後にし、王都へと向かう道中。


僕たちは馬車に揺られながら、それぞれの思いにふけっていた。


セシリアは王都に戻る安堵からか、窓の外を眺めながら微笑んでいる。

イリスは手帳に何かを書き込み、時折「ふむ……」と考え込んでいる。

ガイル副団長は腕を組み、目を閉じているが、警戒を解いているわけではなさそうだ。


(王都に帰ったら、また騎士団の訓練か……。)


影狼との戦いを経て、僕は明らかに成長している。

剣の腕はまだまだだけど、戦場での経験が確実に糧になっていた。


「レオン様?」


ふと、セシリアが僕の顔を覗き込んでくる。


「どうかしましたか? 先ほどから考え込んでいるようですが……。」


「ああ、いや……。王都に戻ったら、また色々と忙しくなるなと思ってさ。」


「ふふっ、それはそうですわね。」


セシリアはくすくすと笑った。


「ですが、レオン様はもう"平凡な村人"ではありませんわ。王国の英雄候補として、多くの方々が注目しています。」


「いやいや、英雄なんてとんでもないよ。」


「でも、王宮ではそう思われているのですよ?」


セシリアが意味深な笑みを浮かべる。


「……なんか、嫌な予感がするんだけど。」



王都に到着した僕たちは、すぐに王宮へと向かった。


正門をくぐると、そこにはすでに数名の貴族たちが待ち構えていた。


「……やっぱり。」


僕は思わずため息をついた。


「おや、これはこれは。"影狼を退けた英雄"のご帰還ですか。」


嫌味たっぷりな声を上げたのは、ロルフ侯爵。

中堅貴族の彼は、以前から僕のことを快く思っていないらしい。


「少し話を聞かせていただけますか? 影狼相手に"どのような活躍"をなされたのか、詳しく。」


「……いえ、僕はただ、仲間と共に戦っただけです。」


「ほう? しかし、王宮ではあなたが"異例の才能を持つ者"であると噂されておりますが。」


「そんな噂、どこから……。」


チラリと横目でイリスを見ると、彼女はそっぽを向いている。


(……絶対にイリスのせいだ。)


「まあ、それはさておき。」


ロルフ侯爵は目を細める。


「王宮には貴族としての立場があります。あなたのように"無位の者"があまり目立つのは、好ましくないのですよ。」


「……。」


「どうでしょう? 王宮に残るのであれば、しかるべき貴族の庇護を受けるのが良いかと。」


「それは……。」


(つまり、この人は"僕を取り込もうとしている"ってことか。)


考えを巡らせていると、突然、別の声が割って入った。


「レオンは私の護衛兼指南役ですわ。」


セシリアが毅然とした態度で前に出る。


「彼がどのように立ち振る舞うかは、私が決めます。」


「……ほう。」


ロルフ侯爵は苦笑し、肩をすくめる。


「なるほど。では、姫様のお考えを尊重いたしましょう。」


そう言って、その場を去っていった。


「……ふぅ。」


僕は安堵の息を吐く。


「ありがとうございます、セシリア。」


「いいえ、当然のことですわ。レオン様は私の大切な――」


言いかけたセシリアだったが、急に顔を赤くして言葉を濁した。


「……とにかく、気をつけてくださいませ。貴族たちは思惑のためなら、どんな手でも使いますから。」


「……わかってる。」


こうして、王都に戻った僕は、新たな問題へと巻き込まれていくのだった。




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