第23話
砦を後にし、王都へと向かう道中。
僕たちは馬車に揺られながら、それぞれの思いにふけっていた。
セシリアは王都に戻る安堵からか、窓の外を眺めながら微笑んでいる。
イリスは手帳に何かを書き込み、時折「ふむ……」と考え込んでいる。
ガイル副団長は腕を組み、目を閉じているが、警戒を解いているわけではなさそうだ。
(王都に帰ったら、また騎士団の訓練か……。)
影狼との戦いを経て、僕は明らかに成長している。
剣の腕はまだまだだけど、戦場での経験が確実に糧になっていた。
「レオン様?」
ふと、セシリアが僕の顔を覗き込んでくる。
「どうかしましたか? 先ほどから考え込んでいるようですが……。」
「ああ、いや……。王都に戻ったら、また色々と忙しくなるなと思ってさ。」
「ふふっ、それはそうですわね。」
セシリアはくすくすと笑った。
「ですが、レオン様はもう"平凡な村人"ではありませんわ。王国の英雄候補として、多くの方々が注目しています。」
「いやいや、英雄なんてとんでもないよ。」
「でも、王宮ではそう思われているのですよ?」
セシリアが意味深な笑みを浮かべる。
「……なんか、嫌な予感がするんだけど。」
◆
王都に到着した僕たちは、すぐに王宮へと向かった。
正門をくぐると、そこにはすでに数名の貴族たちが待ち構えていた。
「……やっぱり。」
僕は思わずため息をついた。
「おや、これはこれは。"影狼を退けた英雄"のご帰還ですか。」
嫌味たっぷりな声を上げたのは、ロルフ侯爵。
中堅貴族の彼は、以前から僕のことを快く思っていないらしい。
「少し話を聞かせていただけますか? 影狼相手に"どのような活躍"をなされたのか、詳しく。」
「……いえ、僕はただ、仲間と共に戦っただけです。」
「ほう? しかし、王宮ではあなたが"異例の才能を持つ者"であると噂されておりますが。」
「そんな噂、どこから……。」
チラリと横目でイリスを見ると、彼女はそっぽを向いている。
(……絶対にイリスのせいだ。)
「まあ、それはさておき。」
ロルフ侯爵は目を細める。
「王宮には貴族としての立場があります。あなたのように"無位の者"があまり目立つのは、好ましくないのですよ。」
「……。」
「どうでしょう? 王宮に残るのであれば、しかるべき貴族の庇護を受けるのが良いかと。」
「それは……。」
(つまり、この人は"僕を取り込もうとしている"ってことか。)
考えを巡らせていると、突然、別の声が割って入った。
「レオンは私の護衛兼指南役ですわ。」
セシリアが毅然とした態度で前に出る。
「彼がどのように立ち振る舞うかは、私が決めます。」
「……ほう。」
ロルフ侯爵は苦笑し、肩をすくめる。
「なるほど。では、姫様のお考えを尊重いたしましょう。」
そう言って、その場を去っていった。
「……ふぅ。」
僕は安堵の息を吐く。
「ありがとうございます、セシリア。」
「いいえ、当然のことですわ。レオン様は私の大切な――」
言いかけたセシリアだったが、急に顔を赤くして言葉を濁した。
「……とにかく、気をつけてくださいませ。貴族たちは思惑のためなら、どんな手でも使いますから。」
「……わかってる。」
こうして、王都に戻った僕は、新たな問題へと巻き込まれていくのだった。
___________________________________________________
感想や改善点をコメントして頂けると幸いです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます