第3話
「レオン様、私と共に過ごしていただけませんか?」
王女セシリアの甘い声が広間に響いた瞬間、空気が凍りついた。
(……え? ちょっと待って?)
一拍遅れて、周囲の貴族たちや騎士たちがざわめき始める。
「お、おい……今、王女殿下は何と?」
「王女様が、直々に……?」
「まさか、大賢者様と婚約を――!?」
「婚約!?」
僕は思わず声を上げた。そんな話、聞いたこともない! というか、そもそも僕は王宮に来たばかりなのに、どうしてこんなことになっているんだ!?
「まさかとは思っていたが……王女殿下が自らお選びになるとはな。」
「ふむ、確かにあの方ならば相応しいかもしれぬ。」
「王家の血筋に並ぶ者と考えれば、大賢者様ほどの方しかいないだろう。」
周囲の貴族たちは勝手に納得し始めているし、騎士たちは騒ぎながらも妙に誇らしげな顔をしている。
(いやいやいや! ちょっと待って!?)
僕は必死に冷静を保とうとしながら、セシリア王女の手をそっと引こうとする。しかし、彼女は僕の手をしっかりと握りしめたまま、美しい微笑みを浮かべていた。
「ちょ、ちょっと待ってください! 王女様、僕はただの村人で――」
「ふふっ、そんなに謙遜なさらなくてもよろしいのですよ、レオン様。」
「いやいや、謙遜じゃなくて本当に――」
「運命の人が、そんなことを言うなんて……。」
セシリアはうっとりとした表情で僕を見つめる。
(え、これ、もう話が通じる気がしないんだけど!?)
すると、壇上に座る王様が満足そうに頷きながら口を開いた。
「ふむ……セシリアがそこまで言うのならば、レオンよ。そなたには王宮に滞在し、王国の未来を共に考えてもらおう。」
「えええっ!? ちょ、ちょっと待ってください!」
「何を慌てることがある?」
王様は穏やかに微笑んでいるが、その言葉には一切の拒否権がないことがはっきりと感じ取れた。
「いや、だから僕は本当に――」
「謙遜は美徳だが、過ぎるのもよくないぞ、レオンよ。」
「だから謙遜じゃなくて!!!」
僕は思わず叫んだが、もはや誰の耳にも届いていないようだった。
「では決まりだな。」
王様が静かに言い放つと、貴族たちや騎士たちは一斉に頷き、「さすがは王女殿下……」「大賢者様が我が国に留まるとは……」と勝手に納得し始める。
(いやいや、全然決まってない!)
しかし、その抗議の言葉を発する間もなく、セシリアが一歩近づいてきた。
「レオン様、これからはもっとお話しできますわね。」
彼女の瞳は期待に満ちていて、僕の言葉など一切疑っていない様子だった。
(やばい、完全に誤解されてる……!)
さらに、近くにいた一人の騎士が誇らしげに言った。
「レオン様には、ぜひとも我々騎士団にもご指導を賜りたいものですな。」
「おお、それは良い考えだ!」
「大賢者様の戦略眼を学べるとは、これ以上ない機会!」
「ちょっと待って!? なんでそうなるの!?」
僕がどんなに否定しても、話はどんどん進んでいく。
そして王様は最後にこう告げた。
「レオンよ、今夜は盛大に歓迎の宴を開こう。そなたのこれからの活躍に期待しているぞ。」
「えぇ……」
(これ、もう逃げられないやつだ……)
こうして、僕の"無能なのに有能扱いされる"王宮生活が、正式に始まってしまった――。
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現在は文字数を少なめにしていますがどうでしょうか。多めの方がいい、このままでいい、などをコメントして頂けると幸いです。感想や改善点などもお願いします。
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