第2話 透明な男2

2人でサッとお昼を済ませると爺さんの自宅へと向かった。署から車で20分くらいの距離。爺さんからの通報直後に、一度行ったから場所は覚えていた。


「鍵持ってきたか?」


「大丈夫です。あの爺さん、鍵の事はしっかり覚えてたんで」


「でも認知症だろ?」


「あー、そんな感じしますけどね。医者の診断待ちですね」


「これ意外にも事件だったりしねーかな」


「いや、どうですかねー」


富塚さんの言いたいことは読めていた。無駄に取り調べが苦労しそうなのに不起訴とかじゃ、やる気が出ない。そんなに仕事熱心な人じゃないのだけど、俺も気持ちはわかるよ。

「だよなー」って俺も思うもん。


爺さんの家に到着すると、富塚さんは中に入っていった。家の中には鑑識の人もまだいる。俺は家の周りをぐるりと一周回って庭の様子を見てみた。

雑草もかなり生えてるけど、もともとは手入れもしていたんじゃないかなって思わせる庭。何にもないけど放置された庭じゃない。家の周りもそう。手入れしていたのは爺さんなのか亡くなった婆ちゃんなのか。どちらにしてもキチンとした生活をしていたように思う。


家は平屋のかなり古い建物だった。借りてたのなら大家が居るだろうし持ち家なら登記があるだろう?身元なんかすぐ分かるだろう。

そんな事を思いながら、俺も家の中に入った。


「富塚さん、どうですか?」


鑑識が入っているのと、色々と押収して家の中はなんとなく雑然としたままだろうと思ったが、意外にもガランとしていた。まるで引越しをするので荷物を運び出した後みたいな感じに思える。


「郵便物が一つもねぇな」


富塚さんは数少ない家具の引き出しを全部開けて中を覗いたが、その全てがカラだった。


「押収品の中では?色々と持って行きましたよね?」


「いや、あっちにも無さそうって聞いたからさ。おぉい、そっち何かありそうか?」



他の部屋を調べていた刑事に声をかけると、困ったような顔をしながら返事をされた。


「何にも無さそうですよ。って言うか…空家みたいな感じです、すごく綺麗な状態です」


「咳き込みながら何言ってんだ。埃だらけじゃねーか」


「ええ、まぁ埃はあるんですけどねー」


「なんでそれで綺麗な部屋なんだよ」


「それがなんて言うか、モノがなくて。家具は一応あるんですけど、引き出しはほとんどカラで。服は入ってますが、数枚しかなくて多分こっちの部屋ってあの亡くなった婆ちゃんの部屋だと思うんですけど」


「押収したからじゃなくて?」


「いえ、元々こんなだったそうです。押収するものがほとんどなかったって聞きました」


「へぇ?終活でもしてたんかな」


確かに、何にもない部屋だ。小さなタンスにシングルベッド。

ただそれだけ。書類や紙切れの一つもない、何にもない無機質な部屋。


ミニマリスト?ってやつ?やっぱ終活?

それにしては、何にもなさすぎじゃないか?

家の中を見た印象ではかなり几帳面で神経質そうな人だなぁ。


爺さんがあの調子だから、物を溜め込んでそうだと思ったんたんだけどな。あのお婆さんが綺麗好きだったって事なのか。


そして

少し異質だと感じたのは、洋間にあった古く大きな金庫。鍵が掛かっていたために鍵屋を手配して開けてもらっている最中だった。


「富塚さん、そろそろ開きそうですよ!」


鍵屋のそばにいた警官が声を上げる。近くにいた俺も金庫の前に立って今か今かと待ち構える。なんか俺もワクワクしてきた。


「なんかすっごいお宝が入ってたりしないですかね?」


「お前、あんなのドラマとかの話だろ。普通は何かの書類とか入ってる程度で実際は金目のものなんてあったためしねーだろう」


「富塚さん、ロマンとかないんですか…」


「なんだそりゃ」


ガチャン、と鍵が解除された音がして扉がゆっくり開けられた。そこにいた皆が注目する。


まさか、とそこにいた誰もが思っただろう。


金庫の中には本当にたくさんの札束が入っていたからだった。


「ええっ…マジっすか…」


「おいおい、いくら入ってんだよ」


周りの捜査員もザワザワしている。これはさすがに予想外だった。

これがタンス預金ってやつか。相続逃れだろうか?あの老人達がしこたま溜め込んだ金なのだろうか?パッと見た感じ、一億円以上はありそうだ。なにか違法な金とかじゃないだろうな?だったら嫌だなと思って隣りの富塚さんを見たら、彼はめちゃくちゃ面倒くさそうな顔をしてため息をついていた。


そして、札束と一緒に箱が置いてあり中には本らしきものと何かの書類が入っていた。それらは現金とともに押収し、改めて捜査する事となった。


俺が気になったのは本のようなもの。誰かの日記だろうか?このお金とどう関係が?何か大事な事が書いてある気がして、俺は真っ先にこれを読むことにした。






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