第5話:いつもと違う帰り道
残業後の帰り道を流れで、工藤さんと一緒に帰る事になった。
「中野さん、今日は遅くなってすみません。」
「いえ、私は家が近いので大丈夫です。それにしてもあれだけの量を効率的にこなすなんて凄いですね。」
「今まで地道に作業して作ったテンプレートのおかげです。テンプレ様様です、テンプレテンプレ。」
「それはテンプレ言いたいだけでしょ・・・ってそんなノリでしたっけ。」
「すみません、ちょっとテンション上がっているようです。」
(しかし・・・何か知っているやり取りのような?気のせいか。)
「中野さんは、今日は手伝ってもらいありがとうございます。それに、いつも確実に仕事をしてくれるので助かります。」
「ああ、いえいえ、自分で考えて仕事出来ないので、せめて言われた事は確実にしようと思っているだけですよ。情けないですけど。」
「・・・私は入社した当初は、要領が悪いと言われてた反動で仕事を早く終わらす事ばかり考えていました。いつも誰よりも仕事を早く終わらし、みんなから褒められて、今までとは違い生まれ変わった気になりました。」
「生まれ変わって無双する。まるで異世界転生ですね。」
「それに比べて私に仕事を教えてくれた先輩はいつも残業していました。そんな先輩を私は馬鹿にしていました。」
(派遣で転々としているから先輩にはなったことないけど、出来る部下がいると大変なんだな。俺みたいな不器用な人間だと永遠に馬鹿にされそう・・・。)
「・・・でも、先輩が私のミスで上司に怒られていた時初めて、私にミスを先輩がすべてフォローしてくれていた事に気付いたのです。」
「物事のすべては積み重ねです。仕事も信頼も。現実ではたいして積み重ねをしてこなかった人間が生まれ変わったように凄くなったりしないんですよ。」
「・・・。」
(異世界ものを見て現実逃避しているだけの俺には何も言えない・・・。)
「すみません、私的な事を言ってしまって。今日自発的に手伝ってくれた中野さんを見て、あの時、先輩の苦悩を分かってあげていたら・・・と考えてしまうのです。」
「もしかしてその先輩は・・・辞めてしまったとか?」
「いえ、辞めてませんよ。だって私の先輩は鈴木さんですから。」
「え、鈴木さんなんですか?・・・同期だと思ってましたが・・・それにイケメンで有能なので苦悩とは無縁の人のイメージがありました。」
「ええ、実は1年先輩です。それに誰しも初めから何の苦労もなしに有能と思われるようにはなりません。女神から強力な能力を得て、可愛い獣人に好かれる世界とは違うのですから。」
(ん?どこかで聞いたような・・・。)
「私と鈴木さんとの会話イジってます?」
「すみません、イジらせていただきました。」
眼鏡をクイクイしながら、少し照れた表情をしているところを見ると、悪意はないようだ。
「しかし、工藤さんと鈴木さんとそういう仲だとは思っていませんでした。あまり話さないので。」
「別に先輩と後輩ってだけです。今は仕事内容が違うのでそれほど話さないのは当然の事です。」
(でも、いつも俺と話した後、鈴木さんは工藤さんに声をかけていた・・・今思えば、気にかけていたのかな?)
◇◇◇
「今日は色々あったな。そういえば配信はやってるのかな?」
俺がカエリの配信を確認するともうすでに終了しており、アーカイブが残っていた。
「アーカイブが残っているって事は、時間通り配信はしていた。ということは工藤さんは何の関係もなかったわけだ。」
一応、残っていた1時間ちょっとの配信を確認したが、俺が既視感を覚える内容はなかった。
やはり、単なる偶然だったようだ。
でも、そのおかげで工藤さんに話しかけるきっかけになり、助ける事にも繋がり感謝された。
勘違いも時には悪くないのかも知れない。
(しかし、クエリさんですか?って聞いてたら変な人だと思われるところだった。)
これからは勝手な思い込みで行動するのはやめようと心に刻んだ出来事だった。
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