第31話 戦闘
それにしても、部長がはなかなか戻ってこないな?と、ルキヤ達は段々思い始めていた。
その場に残っていた係長に、部長がどこに行ったのか見て来てくれないか?と頼んでみたものの、
「イイんですよ。あの人いつもそうなんです。さっき君達に2000年史を読む前にやたらと雑談を吹っかけてましたよね。あれもいつもの事なんです。結局、元が王族ってだけで
係長から帰ってきた言葉は、予想外に厳しいものだった。
ルキヤ達の面々は、それぞれとかなり親密かつ綿密な話し合いをしてきたので、お互いを尊重しつつまたお互いの意見や考え方を、大体把握している状態になっている。
所がこの、今のキルキス村の役場では、上司と部下の意思疎通はもちろんの事、役人と村人との意思疎通がよく出来ていない状態らしい。この状況が長く続くとおそらく、
「係長さん!もしかするとこのキルキス村も、ゲルドリスの餌食になる可能性があります!」
今、2000年史を読んで『ゲルドリス・グァロウ』と言う存在の正体が大体つかめて来たルキヤ達は、何がどう?すると魔物が活性化するのを理解していた。そしてそれが、世界を混沌に導くことも。
「仕方が無いですね。ルキヤ君達たってのお願との事なので、ワシがちょっと見て来ましょう。」
係長の重い腰がようやく上がり、階下に向かった部長の状態を見に行った。
「アタシも付いてってみるよ、何かあったら・・・すぐ知らせに来るから!」
係長にセイルが付いて行ったが、ルキヤ達は何故か不安を感じていた。
「妙ですわ。あの係長と言う人もそうだったんですけど、あの部長。私が神官に感じた違和感と同じ様な感覚がしますの。」
しばらく椅子でくつろいでいたメレルが、やっと立ち上がって周囲を見渡した。
勇者も、今まで読んでいた2000年史を閉じる。
「も、もしかして、神殿から神官が追いかけて来たのかな?」
既に恐怖感でいっぱいいっぱいになっているアキラが、ヨルの肩に捕まりながら誰かに問いかけた。
「今の所、神官の気配を感じないから大丈夫だと思うけど。あと、神官があんな風に凶暴化したのは、やっぱりあの白い玉を神官が取り込んだ可能性が高いと俺は踏んでる、ただ、今感じている違和感も神官が暴走して魔物化した時と似てるんだ。」
勇者が、時の神殿で感じていた事をルキヤ達に話した。
「ボクも似た感じの違和感を感じていたんですよね。なので今すぐ下の階に皆で行きましょう!」
とヨルが提案したのを聞いた勇者は、
「行こう!何だか本当に悪い予感がする!」
そう言うと、ルキヤ達と共に階段を駆け下りた。
メレルは、
「やれやれ・・・また面倒な事になってきたわね。」
と呟くと、スゥ~っと身体を浮遊させて階下に向かうのだった。
ルキヤ達が1階の、受付カウンターの所に出ると、予想外の事態に陥っていた。
受付の、いつものお姉さんは応接コーナーのソファーに倒れ込んでいて、他の受付の担当者は、受付の座席で眠っている。他の職員の何人かも、そのばでうずくまって動けない状態になっていた。
「やってくれるじゃないの!私はこの人達を見てるから、貴方達は先を急ぎなさい!
メレルは、受付担当の職員の状態を確認しながら、その場で臨戦態勢に入る。
ついさっき2階から1階に下りて来た係長の姿はその場には無く、一体どこに行ったのか?と視線だけでルキヤ達が探していると、
「ルキヤ~!アキラ~!ヨル~!!来てくれ~!!」
救護室から、切羽詰まったセイルの声がした。多分係長もそこに居る可能性が高かった。
「急ごう!」
セイルが、何者かと交戦しているのかも知れないのだ!
救護室は、受付カウンターの部屋からはすぐだった。ほんの十数秒だったかも知れない。部屋に入ると魔法で交戦中のセイルと、セイルの背後で戦闘を見守っている救護室のお姉さん。そして係長の姿が見えた。
ルキヤ達は、セイルと交戦中の人物を直視した。その人物は、先程まで2000年史を読んでいたあの部長だったのだ!
「セイル!大丈夫か!?」
ルキヤが問いかけるも、
「結構厳しい、あの人ほぼ肉弾戦で、アタシの魔法を右から繰り出す打撃だけで防ぐんだよ!アタシ的には打つ手無しだよ!」
かなり苦戦している状況を簡単にセイルが説明すると、
「分かった!ありがとう!セイルは後方・・・受付の部屋に下がって!メレルがそこで待機してるから。オレとアキラと勇者は、部長を何とか倒そう!ヨルは後方支援頼む!」
「分かった。」
「りょ!」
「俺は、ルキヤ君の指示に従うよ!」
ルキヤは、今その場にいる全員に自分の死を伝え、部長との戦闘に入った。
ルキヤが右の拳から繰り出されるだけ気を警戒しながら左腕に切りかかると、左の腕の方から打撃が繰り出されるので、それをギリギリのところでかわしながら、また右腕に斬りかかる。しかしどうしても、左からの攻撃が素早く鋭いので、ルキヤはこれと言った決定的なダメージを与えられないまま勇者に攻撃を代わる事となる。
「ルキヤ、今支援魔法をかけるよ。」
ヨルが魔法の発動体勢に入る。
「発現せよ!このヨル・カラル・シストラに従いし古の英霊よ!我の名においてルキヤと勇者アルサス・シストラに疾風の素早さを授けよ!」
ヨルが発した魔法は、素早さを上げる魔法だった。
ルキヤの行動速度が上がって、今までかわすのがやっとだった部長の拳が、さっきの数倍遅く感じられる様になった。
「助かる!」
ルキヤの剣が、部長にかなり当たる様になっていた。
勇者も、元々勇者なだけあって、ヨルの魔法で行動速度が上がった事で、ルキヤ以上の命中率になっている。更に、ヨルがシストラの家系の者と言う事で、同族からの支援魔法はルキヤよりも速度の向上が大きかった。
目にも留まらぬ速さで勇者が部長を切り伏せて行くと、いつしか部長の動きが止まった。
斬りつけた傷は深くはなく、回復魔法をかければ治る様に仕向けて攻撃していたのだ。
「ルキヤ君、気を付けて。弱ったふりをしている場合もある。魔物とはそう言うモノなんだ。」
かつて、数多とも思える数の魔物を倒してきた勇者の言葉は、重くルキヤに響いた。すると案の定と言わんばかりに、部長はまた攻撃を再開してきたのだ。
「やっぱりね!」
勇者は、また軽やかに攻撃をかわしながら、地味に剣で小さな傷を部長の身体に刻んで行った。しかし、何十と言う傷をつけても全くダメージを受けている様子が無い。このままだと、先に勇者が倒れる可能性が出て来ていた。
「現れなさい!
救護室の中に入らずに詠唱したメレルは、使役している守護獣を使って部長を攻撃し始めた。この魔法なら、外道魔法よりは魔力の消耗は少なくかつ、外道魔法並みの攻撃を敵に与えることが出来るのだ。
メレルが堕天使と呼んで召喚したのは、黒い翼を6枚(3対)背に生やした、オオカミの頭部を持つ悪魔だった。悪魔は魔物とは違って高位の存在。むしろ神に等しいと言っても過言では無かった。
メレルが召喚した堕天使を見た部長は一瞬
「グオォォオオオ!!!」
堕天使のオオカミの口から放たれた
床には大量の血が流れ始めた。
標的が倒れたのを確認した堕天使は、ご褒美?としてメレルに頭を撫でてもらうと、スゥ~っと空気に溶けて行った。
「スゲー!」
結局アキラの出番はなかったのだが、メレルの魔法をまたしても目の当たりにして驚いていた。
メレルの魔法をルキヤ達が見るのは2度目だったが、勇者はこんな感じの魔法を幾度となく見て来たのであろう。
「メレル・・・」
他にも色々言いたい事がありそうな勇者だったが、
「でも、これ位しとかないと、コイツまた復活しましてよ?傷口をごらんなさい?」
メレルの言葉に従って倒れたぶちょ王の身体を見ると、あんなに勇者が斬りつけていた傷が再生して、もうすぐ治りそうになっていたのだ。
「コイツはもう駄目ね。神官も多分そう。と言うか今のゲルドリスの本体は神官だと思う。」
メレルは、そう言った後、
「神官・・・いえゲルドリスは多分、何かしらの不満や憎悪を心に秘めている人間を魔物にする能力があると仮定した方が良いわね。だからこの部長が餌食になった。でも、仲間を増やそうと言う魂胆はこの
ルキヤ達は、メレルの提案に頷くしか無かった。
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