第30話 ゲルドリスの正体
「マーガレット・リサルヘスは、その身を捧げ時の神としての力を継承した。継承後は、時の神の名を『カリクルサス・リサルヘス』に改名している。そのまま、マーガレット・リサルヘスの『リサルヘス』の部分だけで時の神を継承していく事を神官たちに勧められたが、彼女はカリクルサスの偉業を称えずして神の座に収まろうとするその心こそ、あの魔王の活動を活性化させる事だと神官や民草に説いた。清浄な心を維持する事こそ、世界をに安寧がもたらされるのだと告げた。」
部長はそこまで読み上げると、
「スミマセン、ちょっと喉が渇いたので・・・」
と言って席を外した。部長がその場からいなくなると、今度は勇者が部長の座っていた席に座り、更に読み進めて行く。」
「マーガレット・リサルヘスは、かなり豪胆な性格の持ち主だったんだね。今までのこの世界の平穏と安寧は、彼女がずっと守っていてくれてたのに、俺は・・・」
ついぞ今朝まで、勇者は今起きている状況の原因を時の神の暴走と言って疑っていなかったのだ。セイルが信仰の重要性を説いてみても、その決心は揺らがなかった程に、時の神の暴走が原因だと思い込んでいたのだ。
「まぁ、そう言う事ってありますよ。恋は盲目・・・みたいな。」
「ですね。勇者は今回は恋では無かったですが、一途な妄執みたいな感じで良かったんじゃいですか?」
ルキヤっとヨルが、フォローなのかそうではないのか良く分からない事を勇者に投げかけると、
「そうかも知れないね。俺は間違った方向に君達を導こうとしていたのかも知れない。」
と、予想外に弱気な事を言ってきた。
「はい!それがヤツが活性化する原因なんでしょ!」
セイルが、いつになく弱気になっている勇者に注意する。
そうだ。多分そうやって色んな多くの人の不安や憂いがどこかに集まって、それが『ゲルドリス・グァロウ』と言う存在を生み出したのではないか?と思い、勇者は2000年史の最初のページを開いた。そこには、この2000年史を書き始めた最初のキルキス村の記録員の言葉があった。
『何事にも執着しろ。世界を救おうとは思うな。目の前の光景を記録しろ。世界は情報に満ちているが、それを記録しようとする者は我々のみ』
キルキス村の記録員の教訓の様なものが書いてあった。
「凄いよな、キルキス村の人って。特にこの記録をしてきた人は今まで何人?何百人?かなりの数の人が関わってきて、この2000年史が出来てる。」
ルキヤは、素直に静かに驚いていた。
昔の誰かが書いた記録を今、1637年後の人間が読んでいるとか、この2000年前の記述をした人には思いもよらないだろう。
「さて、2000年史最初の記述は・・・・。村に現れたのは、自身を魔王だと言う一人の男だった。男の名は『ゲリドリス・グァロウ』旅の芸人一人だった。ゲルドリスは、キルキス村の広場に座を構えて、数人の芸人仲間とキルキス村の村民を非常に楽しませた。結局ゲルドリスはその年いっぱいキルキス村に居て、その後去って行った。最初に会った時の魔王は、芝居の役柄だったのだが、後も彼は自身の事を魔王と呼び続けた。」
「へぇぇえ~、面白い!」
「え!?最初はヤツも、ただの人間だったって事?」
それぞれが、『ゲルドリス・グァロウ』と言う人物の最初の状況に釘付けだった。まさかの旅芸人で、キルキス村に長期滞在していたなんて、全く想像もしていなかった。
「そこから、どうやって世界を混沌に
「じゃ、続きを読もう。ゲルドリスの一行がキルキス村を離れて3年が経ったある日、村にふらりとゲルドリスだけが現れた。キルキス村の住人は、久しぶりのゲルドリスの来訪に喜んで、三日三晩の歓迎の宴を催した。かなりの騒ぎっぷりだったのだが、宴が終わって村人が普段の生活をし始めると、ゲルドリスはある魔物になって村人を襲い始めた。最終的には村の戦士が討伐に成功したのだが、また数日後ゲルドリスは現れた。」
「え?どゆ事?」
アキラが、何やら食べ物を口に
討伐されたゲルドリスが、また元の姿で戻って来たならそれは、かなりヤバイ話だろう。
「戻って来たゲルドリスを見た村人は、ゲルドリスは死霊の類だろうと言う結論を出し、周囲に本来のゲルドリスの遺体が転がっていたりしないか、人海戦術を駆使して捜索に当たったそうだ。結果、見つけた。魔物に取り込まれたゲルドリスの遺体を見つけたのだ。すぐさまキルキス村の聖職者が集められ、ゲルドリスの魂を天に帰そうとする術が展開されたが、逆に術返しで多くの聖職者が死んだ。ただ、その後苦戦したものの、ゲルドリスを倒すことに成功した。ゲルドリスの遺体は砂になって崩れ落ちたが、そこには『謎の白い玉』が残された?!」
2000年史の最初の年、旧暦2893年に、カルスを魔王にしたあの白い玉が出現していたのだ!
「じゃあ、時の神が身を挺して封印した時のゲルドリスの身体も、誰かどこかの人間を依り代にした憑依体だった可能性があると?」
衝撃の事実を目の当たりにして、ルキヤ達は言葉を失った。だが、この先もしばらく分読み込まないと、ゲルドリスを何とかするためのヒントを知る事が叶わない可能性もあった。
「驚いたなぁ~。こんなに昔からゲルドリスはこの世界に居たんだ。では、続き。白い玉を、近くの時の神殿に封印する、当時の神官はかなり警戒していたが、キルキス村では村の平穏と安寧を優先して、その神官を更迭して新しい神官を配置した、そうしてしばらくの間その玉は、時の神殿で保管されることになった。」
「・・・・」
この記述で、当時の、今から約2000年前の人達は、その白い玉がただの玉と言う認識で管理していたのだろう。ただ、時の神殿で預かってもらうと言う方法を取ったと言う事は、少なからず危険な物体だと考えていた一派も居たのかも知れない。
とにかく、その白い玉を何とかしない限りは、『ゲルドリス・グァロウ』の存在を完全にこの世から消すのは難しそうだと、ルキヤ達は感じていた。
多分その白い玉は、ゲルドリスを襲った魔物の魂の様なモノだった可能性がある。で、たまたまその魔物の棲む森の中などで、ゲルドリス達旅芸人は襲われた。すでにその時にゲルドリス本人は死んでいて、魔物がゲルドリスのふりをして村に入り込んだと言うのが、もっともらしい真実の様な気がしていた。
で、多くの人が魔物になったゲルドリスに気付けなかったのが、もともと人間だったゲルドリスは、街から街へ国から国へ移動しながら芝居や、歌や踊りを披露して回る旅芸人だったと言うのが根本にある。芸人は、何者かの役になり切って芝居をするので、色んな人や動物の物ま真似と言ったら、十八番の芸だっただろう。そのスキルを吸収した魔物がゲリドリスのふりをして村に入り込むのは、至極簡単な事だっただろう。
そうして、ゲルドリスが久しぶりにキルキス村に戻ってきたが、魔物の憑依だと言う事に気付かれて、思い通りに人間を支配することが出来ず封印されたのが、その2000年前だった。
「と言うかさ、もしかしてキルキス村の記録員が記録を残すようになったのって、ゲルドリスに襲撃されたことがキッカケだったりしてない?ゲルドリスと言う存在を生み出してしまった一翼を担っているんじゃないか?って、当時の村人の誰かが思って責任を感じて、それからこの記録は生まれたんだとは思わないかな?」
ルキヤは、戻ってこない部長の代わりに2000年史を読む勇者に、自分の考えをぶつけた。
「確かにそうかも知れない。他にも2000年史よりも前の記録が残っているのなら、ただの記録好きの不思議な村と言う認識になると思うけど、それが無いとするならば、ルキヤ君の見解が正しいのかも知れない。」
勇者はそう言うと、2000年史の最初のあの言葉にまた目を落とした。
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