京終兄弟と開放骨折

神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ)

第1話

「えっちゃん、知ってる。骨折でも、肌をつき破ったのが、開放骨折って言うんだよ」

「あ、はい……」

 京終きょうばてにあるアトリエ。何やら一生懸命、読書していた京終逸歌きょうばていつかくん。小学一年生。

「ごめんね、えっちゃん。うちの弟、今、全身の骨の名前、覚えている最中だから」

 三十歳以上年上の兄は謝った。

「うーん。同じ一年生でも、それは医学部の一年生が覚えるやつでは」

「それはそう。医学生などは、自分の身体なり、友人の身体なりを使って、ここはああだ、こうだと言って覚えるのです」

 私は、再び、ちびっこを見た。隣に座り、本を覗き込む。

「何コレ、英単語帳みたいになってる。でも、骨。そして、英語とかギリシャ語とかが書いてある!」

「そうなんだよ。昔の医学生はドイツ語で勉強したらしいけど、今は大体英語だって」

「まあ、大体、論文も英語でしょうしねえ」

 お茶を飲む。

「逸歌くんは、骨の名前を覚えてどうするの」

「次は、筋肉の本、買ってもらうの」

 目をキラキラ輝かせている。

「やっぱりね、いきなり神経はキツくない?」

「まあ、骨がわりと解りやすいですかね」

 溜息を吐く。

「え、何故、こんなことに?」

「あのね、京都駅から終点まで、四十分くらいでしょ。暇だから」

「ああ~……」

 納得した。

「京都駅からだと、確実に座れますもんね。ボックス席、ガコンってして」

「そうそう」

 京終先生もお菓子を食べる。

「読書、メチャクチャはかどるよね。電車って。和歌山線、マジでおすすめ」

「何か古道沿いのところでしたっけ」

 関西の子供は、大抵、遠足で歩くらしい。疲れたら電車に乗ればいいので楽らしい。

「うん。しかし、開放骨折か。ブラック・ジャックって自分のお腹、鏡に映して自分で手術してたでしょ。現役の医師にアンケートしたら、腹は無理だけど脚ならいけるかもって」

「いや、でも、ちょっと切ったとかならともかく開放骨折ですよ。プレートなり、ボルトなり必要ですよ」

「無理かなあ……」

 日は暮れていった。

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京終兄弟と開放骨折 神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ) @kamiwosakamariho

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