第24話いびつな家族2

「私はいやよ!!なんで訳もわからないやつと一緒にすまなきゃいけないのよ?」

 少女は机をバンと叩き、勢いよく立ち上がった。まー、見ず知らずの男と一つ屋根の下で暮らすということは、年頃の女の子には少し酷なことだろう。だが何故だ。

「すまない、だが決めたことなんだ。わかってくれ。」

 誠二さんがなだめるように、優しく語りかけると。少女は怒りが増したようで、俺と誠二さんを強く睨みつけた。だが正直な話これは少し誠二さんが少し悪いと思う。もう少しこの子にちゃんとした説明しなくては、このように反感をかうのは当然だ。

「わかったわ、だけど私はそいつのことを認めないから。」

 少女はそう言ってどこかに行ってしまった。誠二さんの顔を見ると、少し寂しげな表情をしていた。

「チッ、私は、べつにどちらでもいいですね。まぁ勝手にやってください。」

 この人舌打ちをしたぞ。しかもなんかさっきから、誠二さんにすごいよそよそしくないか。ほんとにこの人たちは家族なのか。

「ああ、ごめんね。ずっと迷惑かけてたのに。」

 誠二さんは、とても申し訳なさそうな表情をして、頭を下げた。なんで誠二さんは、謝っているんだ。ここはこの人の態度に怒らなくてはならないんじゃないか。

すると女性は早々立ち上がり、俺を見下したような目で見た。

「それじゃ、この後用事がありますので。」

 そう言って女性はリビングから出て行ってしまった。さっきから、あの人たちの態度はなんなんだ。俺の扱いは少しわからなくもないが。誠二さんに対して少しよそよそしくないか。

「ごめんね、ほんとはあの子達はいい子なんだ。自分勝手な私がが悪いんだ。」

 俺を寂しげな表情で見て、誠二さんは謝った。この人が、なぜ謝るんだ。身寄りもない俺を家族に無理を押し通して、住まわせてもらう俺が謝らなければならないのに。そして、昨日あれだけ辛い思いをして、しかも家族に昨日なにがあったかも聞かれずにあんな言葉を投げかけられて、一番つらいこの人がほんとに不憫で仕方がない。何も知らない俺が言えた話ではないが、だがこのことをどうにかしたい。

「頭を上げてください誠二さん!昨日あんな辛いことがあって、しかも家族からあんなひどい言葉を受けさせた原因の俺が謝らなくてはならないというのに。なんで誠二さんが、謝るんですか。それとどうしてあの人達はあなたにあんな態度を取るんですか。」

 俺は声を荒げたことに誠二さんは少し驚いた様子だった。俺は初めてこんなに誰かのために怒りが湧いた。今までは、自分が生き残るための怒りだった。だが今回は、この人のために怒っている。あってから一日もたっていない、この人のために何かをしたいとそう思えた。

「本当に私のせいなんだよ。」

 誠二さんは俺の方を向いて、微笑んだ。

「あなたが、なにをしたって言うんですか。」

 俺がこういうと誠二さんが少し虚な目をして顔が曇った。

「私は死んだと知らされてた龍二を君が来るまで、家族を放って、ずっと探していたんだ。恐らくそのせいで、愛想を尽かされたんだ。」

 俺は、誠二さんの言葉を聞いた瞬間耳を疑ってしまった。家族の死が受け入れられず、探し続けることにどういう問題があるというのだろうか。親というものは元来そういうものではないのだろうか。

「彼女たちは、龍二との血のつながりは一切ないんだ。私とは5年ほど暮らしているが、彼女たちが龍二と過ごしたのは1年くらいなんだ。だからこうなっても仕方がないんだ。これが龍二ともっと、多くの時間を過ごしていたらだったらまた別の形になっていたのかもしれないな。」

 この人が言ったことは、とても受け入れ難い。家族として1年間、過ごした仲だったら、誠二さんの気持ちを汲み取って受け入れられるまで、待ってあげても良かったんじゃないのか。

「それでも、あれはないですよ。」

 俺は、2人への憤りを隠すことができずそういった。すると誠二さんは、少し微笑んでこちらの肩を叩いた。

「蒼梧くん、このことを覚えておくといい。信頼っていうものは、長い時間をかけてやっと得ることができるんだ。だけどその信頼は、ちょっとした些細なことでも無くなってしまうんだ。だから3ヶ月という日数は、信頼を失うのに十分なんだ。」

 俺はなにも言えなくなってしまった。受け入れ難いことだが、これは納得しなくてはならないことなのだろう。

「ごめんね、こんな話をして。朝ごはんまだだったね。何か食べるものを出すよ。」

 誠二さんは、立ち上がって早足でキッチンに向かった。

「ありがとうございます。」

 俺は急いで立ち上がってお礼を言って、キッチに向かった。

 だが、こんなにも人に心配をかけまいと気配りができる人が、本当に信頼を失うのだろうか。

 パリン!

 何かが割れたような音がなり、急いで台所を覗き込むと。コップが割れて、破片が散乱していた。

「あぁ、コップが割れちゃった。ごめんすぐに片付けるから。」

 誠二さんは、ゆっくりとしゃがみ込んで破片を拾い始めた。

「手伝います。」

 俺はすぐにしゃがんで、破片を拾うのを手伝おうとした。

「大丈夫だよ。私がするから。」

 誠二さんは優しく言った。だが、流石にこの人に気を遣わせてばかりでは、少し居た堪れない。

「大丈夫ですよ。これくらいさせてください。」

 俺は急いで破片に右手を伸ばしガラスの破片を取った瞬間、人差し指から血が流れ出した。

「指を切ったのかい、絆創膏と消毒液持ってくるよ。」

 誠二さんは、心配そうな声で俺にそう言って。急いで立ち上った。だがもう血はもう止まり、傷が塞がり始めている。

「大丈夫です。こんな傷はすぐに治るんで、ほら。」

 俺は、誠二さんの目の前に指を出し。傷が塞がっていくのを見せた。すると誠二さんは、目を大きく開き唾を飲み込んだ。流石に驚いたのだろう、俺の自己再生能力は特別だからな。

「君は、まさか特質能力を持っているのかい?」

 誠二さんは、声を震わせながら問いかけてきた。何かまずい事があるのだろうか、誠二さんの顔の雲行きがどんどん怪しくなっていく。

「何か問題がありましたか?」

 少し不安になり、膝を震わせて問いかけた。すると誠二さんは、深呼吸をして真剣な顔になった。

「少し席に座っていてくれるかな。」

 誠二さんは、俺の肩を優しくポンポンと叩き、悲しんでいるような声色で言った。

「わかりました。」

 誠二さんの不安げな表情から逃げるように、少し早歩きになりそうな足を抑えながら、ゆっくりと歩いき席に座った。誠二さんの様子、声色から、自分に何かやましいことがあるのすぐに察した。さっきまで、俺たちを心配させまいと笑顔が絶えなかった人が、俺の能力を見た瞬間に笑顔が消え、さっきまでの和やかな空気から一変し重たい空気になった。昨日やっと俺の身寄りが見つかり、生意気ながら他の人の心配をする余裕があった自分は、すぐにどこかに行ってしまった。これから誠二さんは、俺に何を伝えようとしているのだろうか。

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