第22話優しさ
「これは、これは龍二の文字だ。」
誠二さんは口を右手で押さえて、目から涙をこぼした。よかった、龍二の筆跡は変わってはいなかった。誠吾さんは手紙を読み進めた。
だが俺はこれからどうやって生きていくのだろうか。克馬と過ごして俺は得たものといえば人を殺す術だけだ、というか克馬はなぜ脅威になるような俺みたいな人間に、戦う力を与えたのだろうか。何も考えず奴の言っていた趣味だというのなら、馬鹿としか言いようがない。もしかしたら異能力を持った人間は、戦闘能力と自分の異能力の力が比例しているのかもしれないな。そんな事よりも、俺の未来の事だやはり軍人というのが妥当なのだろう。それ以外を考えても思いつくものが、あまりない。
誠二さんの方を見ると、さっきよりも涙の量がどんどん増えている。龍二っていうやつは、誠吾さんのこの姿を見ていると。克馬以外の人間と関わっていた記憶がない自分でも、すごく愛されていた人間なのだなということがよくわかる。ここまで家族に涙を流してもらえるということは、どんな感じなのだろうか。俺の家族がもしもいたら、俺がいなくなった時に涙をこんな風に流してくれたのだろうか。
「ありがとう、全部読ませてもらったよ。」
誠二さんは目から涙を拭って、俺に笑いかけてくれた。この人はたった今、親族が亡くなったということを知らされたというのに、俺に笑った姿を見せてくれている。この人は自分の感情よりも、俺のことを優先している。
「もう何年もあの子が見つからなかった時点で、こうなることは覚悟していたつもりだったんだが、やはり悲しいものだな。」
誠二さんは、鼻を啜りながら話した。誠二さんの目から拭っても拭っても流れてくる涙は見ているだけで心が締め付けられる。
「実はね、3ヶ月ほど前に龍二が骨になって、見つかっていたんだ。でも私はその事が信じられなくてね。ずっとこうやって意味もなく、龍二のことを調べていたんだ。でも君のおかげで、やっと龍司の死を受け入れることができた。ありがとう。」
誠吾さんは、頭を下げて礼を言った。その姿を見ると心が締め付けられる。
「いへ、俺はなにも。頭を上げてください。」
俺がそういうと、誠二さんは頭をゆっくりあげ。目から涙を流しながら微笑だ。
「君は今日からここで暮らすといい。」
この言葉を聞いて、ホッとしている自分と、疑問を持つ自分がいる。
「この手紙に君の面倒を見てやって欲しいと、書かれてやったんだ。」
やはり、手紙か俺みたいな見ず知らずの人間を面倒を見てやる。義理なんてないしな、当然のことだ。
「あとそれだけじゃない、君は龍二と一緒で拉致された場所で辛い目に遭っていたのだろ。そんな子を無碍にはできないし、それとなぜか君は放っておいては行けない気がしたんだ。」
誠二さんは俺の肩に手を置き、優しく語りかけてくれた。
「ありがとうございます。」
俺が礼を言うと、誠二さんは立ち上がった。
「二階に使って客室があるんだ、そこに案内するよ。ベットとかはちゃんとあるから安心して。」
すぐに立ち上がって、少しくらっとする。そういえばずっと水を飲んでいなかったな。緊張していたせいで、全然気づかなかった。
「すいません水をいただいていいですか。」
そういうと、誠二さんはもしわけなさそうな表情をした。
「すまないね、水も出さなくって。」
「いえ、こちらこそすいません。」
俺がとっさに謝ると誠二さんは、そう言って急足で台所の冷蔵庫に駆け足で行き、水の入ったペットボトルとコップを取り出して、コップに水を注ぎ始めた。コポコポと水を注ぐ音を聞くと、口の渇きがどんどん増していくように思えた。
「はいどうぞ。」
渡された目の前のコップをすぐに取り、口にすぐに持っていった。渇き切り死んでいた喉が、水のおかげで蘇る。コップ一杯に入ってあった水はすぐになくなってしまった。
「ありがとうございます。」
空になったコップを渡して、誠二さんはそれを受け取って、洗面台に持っていき。すぐに戻ってきた。
「それじゃ、ついてきて。」
誠二さんは、ドアを開けてこちらに語りかけた。
「わかりました。」
誠二さんは頷き、歩き始めた。俺もその背中を追って歩く。階段を上がり右に回ると誠二さんは、立ち止まった。
「この部屋だよ、入って。」
そう言って、ドアを開けて入るように促した。すぐに部屋に入って辺りを見渡した。その部屋は、ベットと机だけのシンプルな造りで、前まで過ごしていた部屋よりも少し部屋だった。。
「この部屋だよ。今日はゆっくり休むといい。」
「ありがとうございます。」
俺が礼を言うと、誠二さんはすぐにドアを閉めどこかに行ってしまって。だがドア越しからでもシクシクなく誠二さんの声が聞こえてきた。俺に弱いところを全く見ず心配させまいとするあの姿は、誰にもできないとても素晴らしいことだと思った。
さっきからなぜか、涙が込み上げてくるようなものがある。誠二さんのようになにか失っているというわけでわないのに、涙が出そうになる。悲しいというよりか、心が温かくなって感動しているからだろう。この気持ちは決して忘れてはならない気持ちだ。
「今日は久しぶりにゆっくり寝れそうだ。」
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