一晩で消えたクソデカ機材
斉藤しおん
一晩で消えたのは38キロのご老体機材でした
38キロの機材が1晩のうちに姿を消した。
元々、廃棄予定の機材。
最近まで仕事をしてくれていた職場の機材の一つでとうとう壊れたかなりのご老体。
周辺機器に影響はなかったものの『ついに買い替えか』と
粗大ごみとして引き取ってもらう申請もして
別れを告げたばかりの38キロの機材が1晩のうちに忽然となくなってしまった。
気付いたのは業者の人の来訪と共に『機材が無い』という連絡があったからこそ。
そう、誰かが持ち去ってしまったのだ。
一人では無理だろう、二人くらいだろうか。
おそらく女性では二人でも運べない。
男性二人ならなんとかといった所か。
しかし、落ちていたとしても持っていくだろうか?
縦横70センチ、高さ40センチ、38キロのクソデカ機材を。
持って行ってどうする?
まず、電源は入るが使用するのに技術がいる機材だ。
その上、販売停止されてかなり経つ古い機種。
当たり前だが素人に扱える品ではない。
完全に壊れて直しようがなかったものをわざわざ持って行くなんてとは思ったものの
近くを走る電車を見て「あー」と来てもらった業者の方と共に納得した。
もしかすると何人かで機材を抱えてそのまま電車に乗って売りに行ったのだろう。
リリースされた当初は多くの技術者に憧れの目で見られていた機材。
非常に高価でラジオ放送でも使われていたと聞きます。
しかし、今では型も古くなりネットで売っても二束三文。
しかも壊れてしまって使い物にならない今では二束三文以下になってしまった機材。
明日の朝になれば回収業者が取りに来るとも知らず
『きっと大きくて重くて金になるだろう』と
夢いっぱいの気持ちで抱えて持って行ってしまったのだろうな。
なんだかとても若い二人が汗をかいてこの1月の寒空の下
そんな青春をしながらジャンクショップに駆けこんで
ちょっとした臨時収入になるぞとワクワクした所に
大したことのない査定を突き付けられ
絶望する様を思うと何とも言えない気持ちになった。
今は小さくて持ち運びにも便利な機材が主流で
大きくて重い機材は流行遅れになってしまっているのを知らないがために
大変な思いをして1月の寒空の晩に運んで行ったのだと思うと
何とも言えない気持ちになるしかない。
お世話になった機材。
思い入れはないこともないけれど
やっぱり新しい機材が可愛いと思ってしまうくらいには
利便性で運営している者なだけに
既に新機材をチューニングして
音が綺麗に録れるかをチェックしてはしゃいでしまっている。
捨てる神あれば拾う神あり。
私が捨てようとしていたクソデカご老体機材は
どこかの誰かの手に渡って今も幸せにしているであろうか。
私はお世話になりました。ありがとう、38キロ、ご老体のクソデカ機材。
ありがとう、新機材も同じメーカーのものを買いました。
いらっしゃいませ、新機材。
メーカーさんにはこれからもお世話になります。
一晩で消えたクソデカ機材 斉藤しおん @murasakitooto
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