多重責夢
あげあげぱん
第1話
朝、目が覚める。ベッドから起き、身支度をしてドアへ。ドアノブを回す。小学校に急がないと。
朝、目が覚める。ベッドから起き、身支度をしてドアへ。ドアノブを回す。小学校に急がないと。
朝、目が覚める。何か変だな? ベッドから起き、身支度をしてドアへ。ドアノブを回す。
朝、目が覚める。明らかにおかしい。これは……夢か? おそらく僕は夢の中でループしている。けど夢だと分かったのなら、起きれば良いだけだ。体を起こすイメージをして。そりゃ!
朝、目が覚める。まだ夢の中。夢から起きようとする意識が足らなかったかな? これが夢だと気づいた時から何か気持ち悪い感じがするし、出来れば早く起きたい。頑張って体を起こす。
朝、目が覚める。ベッドから体を起こしたはずなのに、ベッドの上で横になっている。そもそもここは何処だ。僕はいつも、床に敷いた布団で寝ているはずだろう? 何かおかしい。状況を確認するためにも、頑張って体を起こす。
朝、目が覚める。今回の僕は横になっている感覚がありながらも、周囲を確認できている。ベッドの中で横になっているのに周囲がどうなっているか、はっきり分かる。つまり僕はまだ夢の中ってことだ。クソッタレ。部屋は狭く、勉強机やおもちゃ箱が確認できる。確か……小学生のころ、引っ越す前に僕はこんな感じの部屋に住んでいたな。ああ、そうだ。小学校に急がないと。頑張って体を起こす。
朝、目が覚める。小学校に急がないと……いや、今の僕はもう大人だ。つまり、僕は夢の中で、小学生のころの自分を体験している? なら向かうべきは小学校じゃなくて会社だろ。焦るなあ……!
朝、目が覚める。部屋の様子が変わった。よく知る僕の部屋だ。やっとループする夢から抜け出せたのか。嫌な夢を見たなあ。多重夢……もしくは明晰夢ってやつだろうか。どっちにしろ嫌な夢だったな。体感、結構な回数ループしてた気がする。まあ、起きられたのなら良かった。ベッドから出て身支度をしよう。
朝、目が覚める。くそがっ! まだループしてやがる。こういう夢を見るのは心が疲れているからって聞いたことがあるぞ。こんな時、うちの可愛い猫のタマが入ればなあ。とはいえだ。僕は頑張って起きるしかない。うおおおおおおおおおおおおおお!
朝、目が覚める。布団から起き、身支度をしてドアへ。ドアノブを回す。会社へ急がないと。
朝、目が覚める。布団から起き、身支度をしてドアへ。ドアノブを回す。会社へ急がないと。
朝、目が覚める。どうしてだ? 僕はどうして目を覚ますことができない? そんなに夢から覚めたくないのか? 会社へ急がないといけないってのに……ん? 何かが布団のなかには入ってきたぞ? ああ、タマか。お前はもふもふしてて良い毛並みだね。何度触っても最高だ……あ、まずい。意識が。
朝、目が覚める。会社へ急がないといけないってのに、状況は悪くなったかもしれない。ここは……僕が小学生だったころの部屋だ。そろそろタマにご飯をやらないといけない気がするんだがなあ。よし、そろそろ頑張って起きるぞっ!
朝、目が覚める。子ども部屋だ……このままずっと起きることができないんじゃないかと想像して怖くなる。いや、そんなわけはない。僕はいつも通りに布団で寝ていたはずなんだ。起きられなくなるなんてこと、あるわけない。さあっ! 起きるぞ!
朝、目が覚める。また……子ども部屋。まさか本当にこのまま起きられないなんてこと無いよな。焦る気持ちが強くなってきた。なんとしても起きなければ!
朝、目が覚める。これを夢の中の出来事だと自覚したころから、ずっと感じ続けていた苦しい気持ちが無視できなくなってきた。夢から目を覚ます度に水面に上がれたような感覚があり、まだ水中に居ると気づいたような……そんな感覚。僕はあと何度、夢から目覚めれば良いのだろうか?
朝、目が覚める。何か気持ち悪い気配を感じる。夢の中の、もっと深いところから、何かが僕を見ている。そんな気持ち悪さがある。下を見れば、それを確認できるのかもしれない。でも、なんだか怖くて、それはしたくない。急いで起きないと! 取り返しのつかないことになってしまう気がした。僕は急いで体を起こす。
朝、目が覚める。ここは……揺りかごの中……? さっきよりも幼いころの記憶? こんな記憶を僕は知らない。ずっと忘れていたころの幼い記憶を思い出している……馬鹿な……揺りかごの中の記憶なんて思い出せるはずがない。どうにかして、この夢から覚めないと。
朝、目が覚める。揺りかごの中? 揺りかごが、揺れている。まるで液体の上を漂うみたいに。何かが揺りかごの下で蠢いている。液体の中から、何かが僕に迫ろうとしている。やめろ……やめろ……来るな! こっちに来るな! どうにかして、どうにかして目を覚まさないと! とにかく、体を起こすんだ!
目が覚める。何か……液体の中に居るような感覚がある。底の底まで来てしまったような感覚がある。何かが僕を見ている。真正面から、僕を見ている。怖い……目を……開けたくない。それでも、僕は恐る恐る目を開けた。そこには……巨大な魚の姿があった。そいつは僕を飲み込もうとしている。本能的に、そいつに飲み込まれたら終わりだという意識があった。でも、どうやったら逃げられるんだ? 僕はこいつに抵抗できるのか? そもそも、今の僕はどうなっているんだ? ただ、怖くて。僕はぎゅっと目を閉じた。
痛みを感じ、目が覚める。気づくとベッドの中だった。何かが僕の手を噛んでいる。怖かったけど、それがすぐに愛猫のタマだと分かってホッとした。僕はベッドから体を起こす。起こした上半身をタマが頭で押してくる。ここは、よく知る子ども部屋だ。僕はタマを抱えて窓の外を見た。外は、雨が降り続いている。不吉なものを感じたけど、同時に、ここに居続けてもいけない気がした。僕は急ぎドアへ。ドアノブを回す。
ドアの外は、雨が降り続いている。集合住宅の狭い通路がどこまでも続いているように見えた。僕に抱えられていたタマが暴れだし、手を離してしまった。通路に着地したタマが走り出す。急いで追わないと! タマを見失ってしまう! 僕は急いでタマを追う。
通路から見える風景が変化した。今、僕が住んでいる町の風景が見えている。その景色は半分水没していて、その中を、あの魚が泳いでいた。あの魚に捕まってはいけない。捕まると、きっと酷いことになる。それだけが、なぜか僕の中で確信できていた。
通路から、外に出た。今も雨は降り続いている。僕は、近所にある自然公園の中を走っていた。辺りはほのかに明るく、日が昇りかかっている。よく見ると、周囲に多くの人影を見ることができた。老若男女、色々な人間が歩いている。皆が精気の無い顔で同じ方向に向かっていた。
景色が変わる。自然公園の大きな池が見える。その中へ人々は向かっている。僕は、池の中へ入っていこうとする一人のよく知る男を見つけた。近くにタマの姿は確認できない。でも、僕が何をすべきかはよく分かっていた。僕は湖の中へ入っていこうとする男の手首を握り、引き戻した。
朝、目が覚める。僕は近所の自然公園で、池の水に腰まで浸かっていた。手に痛みを感じ、見てみると猫に噛まれたような跡があった。タマ……? それはあり得ない。タマは何年も前に死んでる。いや、もっと不可解なのは、僕の見ている景色だ。池の中に数えきれないほどの溺死体が浮いている。僕が眠っている間、いったい何があったのか。分からない。ただ一つ言えることは、僕は幸運にも命を救われたということだろう。
多重責夢 あげあげぱん @ageage2023
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