付録

「おはようございます。1/24今日は3月中旬並の暖かさとなるでしょう。」

 

 朝テレビでアナウンサーが言っていたのを思い出した。実際、外は1月とは思えないほど太陽の熱を感じた。ちょうど良い澄んだ空気と陽気さ。

私は冬が好きだ、すっきりするからどこか心地よい。夏は暑いしジメジメしててどうしようもない。周りにいる顔の濃い人はみんな夏が好きだし、どちらかといえば顔が薄い人はみんな冬が好きだと言う。雰囲気がじめじめしている人も冬が好きらしいが。




高2の冬。信じられないくらい成績が悪かった。難関と言われるあの大学のあの学部に行きたくて、今更だけど手が痛くなって使い物にならないくらい勉強しようと思った。


大学を卒業して就職した。大企業とかではないけれど、ある程度のところだった。ずっと小説が好きで読んで、書いて、読んで。だからほんとは小説家になりたかった。やっぱり諦められなくて仕事をしながら携帯に詩を書き留めた。時には手を動かして小説とは言えないけど短い物語を紙に書いた。賞に応募して一次選考が通った。自信があったからこのまま大賞を取って小説家になれるかもと思った。二次選考も通った。ほんとうに小説家になれる気がして仕事を辞めた。もし無理でも書き続ければいつか小説家になれるから大丈夫だと思った。


なれなかった。二次で終わった。初めてにしては良い、というか何回目だろうとこの結果は信じられないくらいに良いのだろう。もう一回送れば今度こそいけると思って応募したが、そこから何度送っても二次選考を通過することはなかった。いつからか冬が嫌いになった。


紙に文字を書き続けているから手が痛かった。数年前の大学の受験勉強を思い出した。そのくらい痛かったし本気だった。でも小説家になれなかった。才能は初めからなかった。そういえば大学も第一志望には受からなかった。滑り止めの大学でやりたかったこととは違うことをした。大学は違うけど努力はしたし、大学生活は憧れだったから心を躍らせていたのにそんなに楽しくなかった。今も好きだったことなのに苦しくなっている。楽しくない。私が手を痛めるくらいにやったことはどれもうまくいかない。手は痛くなっただけで腕の先に付いているただの付属品だった。

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おまじない 青葉羽琉 @gtw38

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