最終話『結愛と奏斗』


 あの日から数日が過ぎ、結愛の日常は再び穏やかなものに戻った。

学校の授業や部活、友達との何気ない会話、そして家で過ごす静かな時間。それらはすべて、結愛にとって何よりも大切な瞬間となり、心を成長させる。

 

 今日も、授業が終わり、いつものように放課後の時間が訪れた。廊下のざわめきが徐々に静まり、教室内も静寂に包まれていった。結愛は一人、スマホを使って音楽を聴いていた。窓の外を見つめていた。陽の光が柔らかく差し込み、静かな午後のひとときが広がっている。

 

 その時、教室のドアが静かに開く音がした。


 振り返ると、そこにいたのは奏斗だった。

 

 結愛はイヤホンを外し、スマホを机に置く。

 

「奏斗、どうしたの?」


 結愛は軽く微笑みながら尋ねる。

 奏斗は少し照れくさそうに笑って、ゆっくりと教室に入ってきた。そして、結愛の前に立ち、深呼吸をした後、真剣な表情を見せる。


「結愛、少しだけ、話があるんだ」


 その声には、いつもとは違った重みがあり、結愛の胸が少しだけ高鳴る。

 結愛はその言葉に不安と期待が入り混じった気持ちを抱えながら、静かに頷いた。


「うん、わかった」


 奏斗は少し間をおいてから、ゆっくりと言った。


「俺は、結愛のことが、好きだ」


 その瞬間、結愛の心臓が大きく跳ね上がった。突然の告白に驚きつつも、胸の中には温かな気持ちが広がっていく。奏斗の目が真剣で、彼の言葉に込められた気持ちが伝わってきた。


「奏斗……」

 

 結愛は少しだけ言葉を飲み込み、彼の瞳をじっと見つめた。その瞳の中に、いつもの優しさと真剣さがあった。

 しばらくの沈黙が流れた後、結愛は静かに答える。


「私も……奏斗のことが、好き」


 彼女の声は少し震えていたが、心の中では確かな気持ちがこもっていた。

 奏斗はその言葉を聞くと、表情が少し柔らかくなり、


「本当か……?」

 

 結愛は微笑んで、力強く頷いた。


 「うん! 本当に!」

 

 その言葉が終わると、奏斗はゆっくりと結愛に近づき、優しく手を伸ばす。その手が結愛の手のひらに触れると、結愛の心はさらに温かくなった。二人はお互いの目を見つめながら、静かな時間を共有する。


「結愛、本当に、好きだ」

 奏斗の声は優しく、彼の気持ちが溢れ出るようだった。

 結愛はその言葉を心の中で噛み締め、そっと奏斗の手を握る。


「うん、私も、好き」


 教室の中は静寂に包まれ、外の世界がどれほど騒がしくても、二人の間には穏やかな空気が流れていた。二人の心が完全に通じ合ったのだ。

 

「じゃあ、帰ろう!」

「うん!」



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神織結愛はピアノを奏でる! ココ異世界 @kokoisekai

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