第17話『至高の演奏への道』


 その日は、奏斗の家で作戦会議を開くことになった。

 結愛、奏斗、そして女神アリアの三人は、午後の静かな時間を利用して集まった。

 長谷川家の広いリビングには、大きな窓から柔らかな光が差し込み、落ち着いた空気が流れている。結愛は、少し緊張した面持ちでテーブルに座った。


「さて、どうやって至高の演奏をかだ」


 奏斗が真剣な顔で言う。

 結愛と女神アリアも、静かにその言葉を待っている。

 結愛は少し視線を下げ、思考を巡らせた。

 夢の中で支配の神が言った言葉が、今も頭にこびりついて離れない。

「至高の演奏を聴かせよ」 その言葉が、結愛を試すように響いていた。


「でも、至高の演奏って、具体的にどういう意味なんだろう?」


 結愛はつぶやくように言う。

 奏斗はその言葉に深く頷く。


「それが分からないからこそ、みんなで考えなきゃならないんだろうな」


 奏斗がそう言うと、女神アリアが静かに口を開いた。


「至高の演奏は、ただの技術や演奏ではなく、魂のこもったものだ。音楽が聴く者の心に直接届くような、そういうものだろう」


 女神アリアの言葉には深い重みがあり、その一言一言が、結愛の心に響く。

 結愛は少し目を閉じて考えた。何が「至高」なのか。何がその演奏に魂を込めることになるのか。


 ふと、あるアイデアが閃いた。


「もしかして、私が作曲して、それをオーケストラで演奏するっていうのはどうだろう?」


 結愛がその提案を口にした瞬間、奏斗と女神アリアは驚きの表情を浮かべた。


「作曲?」


 奏斗は目を大きく開いて聞き返す。


「うん、私の心を込めた曲なら、何か伝わる気がする。それに、オーケストラで演奏すれば、もっと多くの音が重なって、感情がより豊かに表現できるんじゃないかな?」


 結愛は少し恥ずかしそうに微笑みながら続けた。


「それに、私はピアニストとして、その曲を演奏する。ピアノの音が一番、私の心を表現する手段だから。オーケストラの中で、ピアノの音を響かせることで、きっと何かが起こる気がする」


 結愛の声には確信がこもっていた。彼女の目は、まっすぐに前を見つめている。


「なるほど……」


 奏斗が少し考え込んだ後、ゆっくりと微笑んだ。


「それなら、俺やお父さんが協力する。オーケストラの指揮とか、曲の構成にも、手伝えることがあれば言ってくれ」


 結愛のアイデアに、奏斗は全力でサポートする気持ちを込めて言った。


「ありがとう、長谷川くん。でも、オーケストラを組むのは大変だし、短期間で完成させるのも難しいかもしれない」


 結愛は少し不安そうな顔をして言った。しかし、女神アリアは静かに頷いてから口を開いた。


「それは、わしが手配しよう。わしの知り合いの音楽家たちが、お主の作曲を支えるために集まることができるじゃろう」


 女神アリアはその目を優しく細めながら、結愛を見つめた。


「本当に?」


 結愛は驚きながらも、アリアの言葉に安堵した。


「ありがとう、アリア様。じゃあ、私も本気で作曲を始めるよ」


 結愛はその言葉を胸に、心を決めた。彼女の手のひらに音楽が宿り、これから新たな曲が生まれていくことを感じていた。


「じゃあ、まずは作曲かな?」


 結愛は言う。

 まずは、そこからだろう。

 

「無理に急ぐ必要はない。ただ、神織がその曲を完成させるためには、どんな支援も惜しまない」


 奏斗は静かに言った。その言葉は、結愛にとって大きな支えになる。

 女神アリアは微笑んでから、少し小さな声で言った。


「心の中にあるものを形にすれば、きっと最も美しい音楽が生まれるはずじゃ」


 その言葉に結愛はうなずき、目を輝かせた。


「私、頑張るよ。陽菜ちゃんのためにも、ゼアルスの呪いを解くためにも。私の至高の演奏、必ず完成させてみせる」


 結愛の瞳は真剣そのものだった。その決意が、奏斗や女神アリアにも伝わっていった。

 

こうして、結愛達は「至高の演奏」を作り上げるための一歩を踏み出した。

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