第15話『支配の神との邂逅』
夢の中――
深い眠りに落ちた結愛の意識は、次第に不思議な感覚に包まれ始めた。
現実世界の静寂から、どこか異次元のような場所へと引き込まれていく。
空気は重く、時間が流れているのかさえ分からない。
その場所に足を踏み入れた瞬間、結愛は自分が夢の中にいることを感じ取った。
周囲は広い庭園のような場所で、色とりどりの花々が咲き誇り、空には淡い月が浮かんでいた。
その景色の美しさに一瞬足を止める結愛。しかし、次の瞬間、彼女は目の前に立つ存在に気づく。
その人物は、驚くほど魅力的だった。
黒髪が風に揺れ、紫色の瞳がどこか謎めいて輝いている。
彼の顔立ちは整い、まるで彫刻のように美しかった。
その人物は、深い紫色の豪華な服をまとっており、まるで王族か神々しい存在のような雰囲気を放っている。
彼はゆっくりと結愛の方へと歩み寄る。
「ようこそ、神織結愛」
その声は、低く、滑らかで、心地よく響いた。まるで音楽のように、耳に優しく、しかし、どこか威厳を感じさせる。
結愛はその声に驚きながらも、どこか引き込まれるような感覚に包まれる。
「あなたは……?」
「私は支配の神、ゼアルス」
彼はゆっくりと自己紹介をした。
その名を聞いた瞬間、結愛の胸に何かが引っかかるような、不安な感情が芽生える。
支配の神、ゼアルス。
その名前は、陽菜にかけられた呪いの元凶だ。
「あなたが……陽菜ちゃんを……?」
結愛は思わず問いかける。
ゼアルスは微笑みを浮かべ、その目を結愛に向けて深く見つめる。
その視線は、まるで彼女の内面までを読み取っているかのようだ。
「ふむ、陽菜の呪いをかけたのは、私だ」
ゼアルスの声には冷徹な響きがあった。
しかし、その冷たさとは裏腹に、どこか引き寄せられる魅力があった。
「私は支配する事も、呪いをかけることも、解くこともできる」
結愛はその言葉に一瞬怯んだが、すぐに心を決めた。
「それなら、陽菜を解放して欲しい。どうすれば呪いを解けるの?」
ゼアルスは軽く肩をすくめ、手を広げて見せる。
「そのためには、貴様の力を証明してもらわなければならない」
彼はそのまま、庭園の中心にある豪華なテーブルへと歩き、椅子を引いて座る。
「こちらへ」
ゼアルスが手招きをすると、結愛は何も言わずにその席へと向かう。
どうしても、彼の言葉には逆らえないような、引力のようなものを感じていた。
テーブルの上には美しく整えられたお茶が置かれており、色とりどりのカップが並んでいる。
その様子は、まるで何かの儀式のように神聖で、そして不気味にさえ感じられた。
結愛は少し警戒しながらも、その席に着いた。
「さて、結愛」
ゼアルスはその優雅な姿勢でお茶を一口すする。
「私は、そなたに一つの提案をしよう」
結愛は静かにゼアルスを見つめる。何かが彼の言葉の中に含まれていることを感じて、胸が高鳴る。
「至高の演奏を聴かせよ。そなたの奏でる音楽が、私の心に届けば、陽菜の呪いを解いてやろう」
ゼアルスの紫色の瞳が、結愛をじっと見据えた。その目は、まるで全てを支配しているかのように深く、冷徹でありながらも、どこか情熱的な光を帯びていた。
結愛は驚きと戸惑いを抱えながらも、ゼアルスの言葉を噛みしめる。
至高の演奏?
それは、音楽を奏でる者としての力を最大限に引き出すことを意味しているのだろうか?
それが、陽菜を救うための鍵だというのなら、結愛には他に選択肢はない。
「分かりました」
結愛は深呼吸をし、覚悟を決めた。
「でも、どうして私が演奏しなければならないの? あなたが解くことができるなら、すぐにでも陽菜を解放して欲しいです」
ゼアルスは一瞬、何かを考えるように目を細めた。
やがて、彼は微笑みを浮かべ、結愛に向かって答えた。
「私は支配する者。音楽を聴くことで、そなたの心と魂を試す。そなたが真の力を持っているか、試させてもらおう」
結愛は少しの間、言葉を失った。
彼の提案が何を意味するのか、まだ完全には理解できなかった。
しかし、今はただひたすらに、陽菜を助けるために、自分の力を信じるしかないという気持ちが強くなっていた。
「至高の演奏……必ず聴かせてみせます」
結愛はゼアルスの瞳を真っ直ぐに見つめて、決意を込めた。
ゼアルスは静かに頷き、薄く微笑む。
「それを待っている」
その瞬間、夢の世界の空気が、ますます重く、そして深く感じられる。結愛は心の中で、これから始まる試練に立ち向かう覚悟を決めた。
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