第9話『彼女の呪い』

 


 病院の音楽室で結愛が奏斗の妹、陽菜のために演奏を終えたものの、陽菜の目は輝かせていた。


「そなたが、長谷川陽菜だな」

「は、はい……!」


 陽菜は車椅子から立ち上がろうとした。


「待て!」


 医学の神アスクレーピオスは手で止め。


「《治癒》」


 陽菜の体が淡い光に包まれた。

 結愛と奏斗が固唾を飲んで、見守った。


「なるほど……」


 しばらくすると、陽菜は明らかに、顔色がよくなって来た。


「あの!」

「とりあえず、応急処置はしたぞ」

「陽菜!」


 奏斗は陽菜の元に駆け寄る。


「あの、神様。どうでしょうか?」

「まだ完全ではない」


 その言葉に、結愛の心は痛んだ。陽菜は回復している。

 たが、だが深刻な理由が隠れていると感じた。

 神様は少し厳しさを含んだ顔つきであった。


「2人ともこちらに来るのだ」


 奏斗と陽菜がこちらに向った。


「あの、神様。ありがとうございます!」

「ありがとうございます!」


 奏斗と陽菜がお礼を言う。


「まあいい。その前に、重要な話がある」


 医学の神アスクレーピオスは3人の顔を見て、目を閉じ、一呼吸。


「実はな、長谷川陽菜の心身共に回復はしたが、彼女には、強力な呪いがかけられている」

「呪い?」


 奏斗は驚いた。

 神アスクレーピオスの言葉には、ただ事ではない雰囲気が漂っていた。

 

 神アスクレーピオスは深く息を吐き、続けた。


「この呪いは、ただの病気ではない。長谷川陽菜を気に入った神、ゼアルスがかけたものだ。ゼアルスは、支配を司る神。彼は強大で、誰もが恐れる存在だ」

 結愛は目を見開いた。ゼアルス。その名前には、どこか怖ろしい力を感じる。


「ゼアルスは、おそらく、長谷川陽菜を手に入れたいと思っている。しかし、彼女を完全に支配するためには、彼女の心を奪わなければならない。だから、病気を与え、そなたを弱らせたのだ」


「そんな……」結愛は息を呑んだ。


 神様はしばらく黙ってから言った。


「この呪いを解くには、ゼアルスに立ち向かう必要がある。しかし、ただの音楽や力では足りない」


 どうすればいんだろう。

 結愛は考えたが、わからない。


「俺は……絶対に守りたい。陽菜を。どんな奴でも、俺は負けない」


 奏斗は決意を込めて言った。

 神様は微笑みながら頷いた。


「その決意が、そなたの力になる。だが、これからは一筋縄ではいかない。ゼアルスはただの神ではない」


「それでも、俺は、諦めません」


 奏斗は真剣な眼差しで言う。

 神様は頷き、

「なら、頑張れとしか言いようがない」


 少しの沈黙の後。


「では、帰る」


 そう言って、医学の神アスクレーピオスは消えた。




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