長万部「長万部の影」

長万部町の名前は、アイヌ語の「オ・シャマム・ペッ」(川尻が横になっている川)から来ていると言われています。この地に流れる長万部川は、かつて多くの魚が生息し、アイヌの人々にとって重要な場所でした。しかし、その美しい川にまつわる恐ろしい怪談が一つ存在します。


昔、長万部川の近くに住む一人の男、健吾がいました。彼はこの川で漁をして生計を立てていましたが、ある日、川で奇妙なものを見つけました。それは、川底から突如として現れた、巨大な影でした。その影はまるで人間が横たわっているかのように見え、健吾はそれが何者かの亡魂だと直感しました。


夜になると、その影は川面から浮かび上がり、岸辺をさまよい始めました。健吾はそれを「オ・シャマムの怨霊」と名付け、恐れながらも好奇心から観察を続けました。なんと、その影は川の流れに合わせて動き、時には人間の形を成すこともありました。


ある晩、健吾は影に近づいて話しかけてみました。「お前は何者だ? 何を求めている?」すると、影はゆっくりと健吾の方に近づき、「私は長万部の守護者。だが、今はこの川に縛られ、永遠に休息を得られない」と答えた。影はかつて、川で溺死したアイヌの男で、川の保護を誓って死んだものの、その誓いが未完のまま残っていると言いました。


影は健吾に、「この川を守り、自然を敬うことを忘れないでほしい」と頼みました。しかし、健吾はこの恐ろしい存在に恐怖を感じ、川から離れようとしました。ところが、その夜から彼の生活は一変しました。夜ごとに影が現れ、健吾の夢に侵入し、彼を川の底に引きずり込もうとするのです。


健吾は次第に心を病み、夜も眠れなくなりました。地元の人々は、健吾の異常な行動を怪しみ始め、ついに彼は川に身を投げる決意をしました。川に飛び込んだ健吾は、その影と再会し、永遠に川の底で眠ることとなりました。


その後も、長万部川では夜になると影が現れ、川を守る存在として恐れられています。特に川の流れが静かな夜には、その影が岸辺をさまよい、川の自然と歴史を守る役割を果たしていると信じられています。長万部町の名前は、こうした川の守護者の存在を暗に示しているとも言われ、地元の人々はこの怪談を語り継ぎつつ、川への敬意を忘れないようにしています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る