網走「無念の獄鬼」
明治時代、網走刑務所は、政治犯から犯罪者まで収容する日本最北端の刑務所として恐れられていました。その中でも最も恐ろしい怪談は、「無念の獄鬼」と呼ばれる話です。
ある夜、網走刑務所の監視塔にいた新人看守は、深い闇の中で作業場から奇妙な音を聞きました。それは、まるで何かが壁を引っかくような音でした。看守がランタンを持って現場に急ぐと、そこには誰もいないはずの作業場で、一人の男が作業を続けていました。
その男は、かつて網走刑務所で冤罪により重労働に就かされ、最後には寒さと過酷な労働で命を落とした受刑者、佐藤一郎でした。彼は生前、無実を訴え続けましたが、誰からも信じられず、無念の内に死んでいきました。
看守が驚いて声をかけると、佐藤一郎はゆっくりと振り返り、無表情で言いました。「まだ...ここにいる...」その瞬間、彼の身体から血が滴り落ち、作業場は血で濡れました。看守は恐怖で逃げ出そうとしましたが、足がすくみ、動けませんでした。
翌朝、その看守は冷たくなって発見され、作業場には新たな血の跡が残っていました。以来、網走刑務所では、夜になると佐藤一郎の幽霊が現れ、無念の思いを訴えるかのように作業を続けると噂されました。
特に、冬の厳しい寒さが訪れる頃、その幽霊はより活発に動き回ると言われています。彼は作業場だけでなく、刑務所内をさまよい、時には他の受刑者たちの夢に現れ、無実を訴え続けました。受刑者たちはその幽霊に怯え、夜は眠れない日々が続きました。
その後、刑務所の職員が佐藤一郎の無実を証明する資料を偶然発見し、彼の名誉が回復されました。しかし、その直後から、彼の幽霊は見かけなくなりました。ただ、時折、夜の作業場からかすかに「無念...」という声が聞こえることがあり、それが「無念の獄鬼」の最後の足跡だと伝えられています。
今でも、網走刑務所の歴史の一部として、この恐ろしい怪談は語り継がれ、訪れる人々や新たな職員たちに、過去の過ちとそこに生きた人々の悲しみを思い起こさせる存在となっています。
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