帯広「十勝のあずき畑」
十勝の広大な平野、一面に広がるあずき畑。その美しさは際立っていますが、その美しさの裏には、恐るべき怪談が隠されていました。
ある秋の黄昏、十勝の小さな村に住む一組の家族がいました。彼らの末娘、さくらはまだ幼く、夕暮れ時のあずき畑が大好きでした。特に、あずきの赤い実が熟し始めるこの季節、彼女はその赤さに魅了されていました。
ある日、さくらは両親の目を盗んで、誰もいないはずのあずき畑へと出かけました。彼女はあずきの実を摘みながら、深い畑の中へ進んでいきました。しかし、突然、あずきの葉の間から聞こえてくる不気味なささやき声。「さくら...さくら...こっちへおいで...」と、まるで彼女を誘い込むような声でした。
さくらは純粋な好奇心から、その声に従って歩き続けました。そして、畑の最も奥深く、人の目が届かない部分に辿り着いた時、彼女は目の前に広がる光景に恐怖を感じました。そこには、無数のあずきの実が、まるで血のように赤く光り、畑全体が血の海のように見えました。
その声は次第に強まり、「ここに来なさい...永遠に一緒に...」とささやきました。さくらが恐れながらも声の方向を振り返った瞬間、彼女の視界に映ったのは、無数の手が地面から伸びてくる光景でした。それらの手は、まるでさくらを捕まえようとし、彼女を引きずり込もうとするかのようでした。
さくらは叫び声を上げようとしましたが、声は出ず、ただ震えるだけ。そして、一瞬のうちに、彼女はあずきの実の中に引きずり込まれ、全てが静寂に包まれました。
翌日、両親はさくらの姿が見当たらないことに気付き、村中が総出で捜索しました。しかし、さくらはどこにも見つからず、ただ彼女が最後にいた場所だけ、あずきの実が血のように赤く染まっていました。そこには、彼女の小さな靴が一つだけ残されていました。
それ以降、毎年秋になると、さくらの笑い声や、彼女を呼ぶ甘い声があずき畑から聞こえると言われています。特に、夕暮れ時、あずきの葉が揺れる音に混ざって、その声は更に不気味に響きます。
恐ろしいことに、この怪談が広まってから、時折、村の子供たちがあずき畑で遊び、二度と戻ってこないことが起こりました。その際、見つかるのは、さくらの靴のように、何か一つだけの遺品。子供たちはまるであずきの実の中に引きずり込まれるかのように、姿を消してしまうのです。
今でも、十勝のあずき畑は美しい風景を提供しますが、その美しさの裏には、幼子を奪い去る恐るべき存在が潜んでいると言われています。村人たちは、この怪談を恐れ、子供たちに夜遅くや一人であずき畑に近づかないよう、厳しく戒める習慣が続いています。
この怪談はフィクションでありますが、自然と人間の関係、そしてその中に潜む不可解な力に対する敬意と恐れを示すものです。
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