第1話 深夜の訪問者

夜の静けさが部屋を包み込んでいた。壁にかけられた時計の秒針がカチリカチリと響く音が、部屋の静寂をさらに強調している。主人公、葉山翔はソファに深く腰を沈め、薄いブランケットを膝にかけていた。手元のカップには冷めかけたコーヒーが入っており、近くのテーブルには読みかけのミステリー小説が置かれている。テレビの画面は消えており、部屋は間接照明の柔らかな光に包まれていた。


「こんな静かな夜も悪くないな……」と独り言を呟きながら、翔は伸びをした。そのときだった。


――ピンポーン。


不意に鳴り響いたインターホンの音が、部屋の空気を裂いた。瞬間、彼の体は硬直し、心臓が一拍、大きく跳ねる。


「……誰だ、この時間に?」


翔は時計に目をやった。午前0時を少し過ぎた頃だった。夜更けの訪問者など、想像するだけで嫌な予感が胸に広がる。しばらくの間、何もないふりをしてその場に留まっていたが、再びインターホンが鳴る。


――ピンポーン。


二度目の音は、さっきよりもはっきりと響いた。翔は息を飲んだ。気のせいか、部屋の空気が重くなったように感じた。インターホンの音が鳴り止んだ後も、耳にその余韻がこびりついているようだった。


「仕方ない、確認するか……」と自分に言い聞かせるように呟き、ソファから腰を上げた。足取りは重く、まるで見えない力に引き止められているかのようだった。廊下を抜け、玄関へと近づくと、不安感がじわじわと体に染み込んでくる。


ドアの前で一瞬立ち止まり、深呼吸をする。チェーンロックがかかったままの状態でドアの隙間から声をかけようか、それともまずはのぞき穴を覗いてみるべきか。迷った末、翔はそっとドアに顔を寄せ、のぞき穴を覗く準備を始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る