❄️2🌹
「ユキ?」
呼ばれてはっとなる。
振り返ると、着替えが終わったアキオが肩にカバンを下げながらこっちを不思議そうに見つめていた。
「あ、ごめん。何?」
「や、ずっとオレの制服見てっから。どしたん?」
そう言われて、畳んでたアキオのサンタ服をずっと持ったままな事にやっと気付いた。
だめだな、僕。
またイヤな考え事してる。
「ううん、アキオもいよいよサンタかぁーって。すごいなぁ」
気づかれないようにちょっと大袈裟にサンタ服を持ち上げると、アキオは「そう?」と頭を少しかいた。
「そうだよ。すごいんだよ、君」
「別に大した事ねーって」
「もっと堂々としなよ。バイトも落ちる僕なんかよりずっとすごいんだからさ」
あ、出た。
アキオお得意のへの字口。
しかも『細目で睨みつける』までセット。
今の発言はアキオの不快ポイントに三点プラスされたらしい。理由は分からないけど事実なんだからしょうがない。
片や夢を叶えた民間公認サンタクロース。
片やバイトの応募五連敗中の居候。
今もバイトを掛け持ちして働いてるアキオは、僕からしたらはるか雲の上の存在だ。
「で、今日の予定は?」
さらっと話題を変えてジャケットを渡すと、アキオは尖り口のまま「遺品整理と配達のバイト」と答えた。今日は朝から夜まで仕事みたいだ。
「気をつけてね」
むすッとしたまま出勤するアキオの背中を見送って、薄暗い玄関に一人膝を抱えて座り込む。朝の冷たい空気が肺に染み込んで、かすかな息が口からもれた。
アキオは小学生の頃の幼馴染で、今は友達以上恋人未満の関係(って勝手に僕が思ってる。
僕は訳あって一年前の冬からアキオのアパートの部屋に居候してるんだけど、僕の貯金はほとんど底をついてて、収入面は全部アキオ頼り。
生活の事もあるし、そろそろ僕もちゃんとしなきゃって今月からバイトを探してるけど僕が中卒って分かった時点で全部お断り。今も応募中のバイトがあるけど連絡待ちのまま、気付いたらあっという間に二月のおわり。
「やっぱ僕、何にも変われないんだ」
胸に残るほろ苦さを抱えながら——今年も春が、やって来る。
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