弱男フリーターおっさん、力の種を食いまくって攻撃力9999の最強忍者になる~外れジョブとバカにされていたが無双配信は大人気に!~

大田 明

第一章

第1話 万燈籠英二

 俺の名前は万燈籠英二まんとうろうえいじ

 42歳のフリーターだ。

 サラリーマンとして働いていた時もあるが、勤めていた先が超絶ブラック企業だったこともあり、鬱になって自主退職。

 そこからは底辺の生活をしている。


 コンビニでアルバイトをして生計を立てているが……最近は特に厳しい。

 生活費が高騰し過ぎて、バイト代だけではギリギリの生活だ。

 最低賃金が上がっていると言ってもそれ以上にお金が必要だもんな。

 スーパーの品物の値段を見て意識が飛びそうになったものだ。


 まぁどうにか生きていけるのでまだ何とかなっているのだが……コンビニ店員には嫌気がさしている。

 横暴な客に、偉そうな店長とやる気のない同僚。

 営業スマイルでレジを打つ毎日に不安と絶望が押し寄せてくる。

 

「そうだ。冒険者になろう」


 夜勤明けの朝、俺は唐突にそんなことを口にしていた。

 きっと限界が来ていたのだろう。

 もうコンビニ店員は嫌だ。底辺は嫌だ。こんな生活はまっぴらごめんだ。


 冒険者とは、数年前に出現した『ダンジョン』を攻略することを生業にする者たちの総称。

 社会人としては落第点の俺ではあるが、冒険者としてならあるいは……


 ◇◇◇◇◇◇◇


 そんな夢を見て始めた冒険者。

 俺は『ギルド』の受付に並び、胸をドキドキさせていた。

 これから始まる冒険者生活に興奮しているのではない。

 【ジョブ】の外れを引かないか心配をしているのだ。


 【ジョブ】とはゲームなんかでよく聞くような『戦士』や『僧侶』などがあり、自分で決めることは不可能。

 冒険者を始める前から【ジョブ】は確定されているらしく、俺が並ぶ列の先でそれを確認できるのだ。

 

 俺が現在いるのは役所のような場所で、施設の名称は『ギルド』。

 『ダンジョン』の横に設置されており、ここでは冒険者のサポートを請け負ってくれているのだ。


「次の方どうぞー」


 俺の番が来た!

 変な汗をかきながら女性の前に立つ俺。

 その人は茶髪をポニーテールにして、眼鏡をかけている美女だ。

 俺と彼女の間にカウンターがあり、その上にはサッカーボールほどの大きさの水晶が設置されていた。


「それではこれに触れてください」

「は、はい」


 これこそが自身の【ジョブ】を知るためのアイテム。

 これに触れることによって【ジョブ】だけではなく、様々な情報を入手することができるのだ。

 

 俺は息を飲みながら水晶に触れる。

 

(忍者だけはやめてくれ。忍者だけはやめてくれ。忍者だけはやめてくれ!)


 心の中でそう叫ぶ。

 【ジョブ】は数種類あるのだが、これを途中で変更するのはできない。

 そして数ある【ジョブ】の中で、最弱最悪で悲惨と言われているのが【忍者】。

 あまりにも中途半端で最弱認定されているそれは、他の冒険者からはバカにされ見向きもされず仲間にもしてもらえないようだ。

 もし【忍者】なんかに当たってしまったら……その時点で冒険者としては失格だ。

 社会人としてもダメなのに、冒険者という夢まで絶たれたら、俺はもう生きていけないかも知れない。


 爆発しそうな心臓。乾く喉。緊張のあまりに意識を失いそうだ。

 水晶に触れると、それは淡い輝きを放つ。


「あー……【忍者】ですね」

「……嘘でしょ」


 苦笑いをする受付の女性。

 俺は口を開けて愕然とするばかり。


「【忍者】だってさ」

「【忍者】って……【忍者】って。ぷぷぷ」

「ご愁傷様。冒険者としてスタート地点にも付けなかったみたいだな」

 

 俺の背後、それから前方にいる『ギルド』社員たちから失笑の声が聞こえてくる。


「これ、『ステータス情報』です」

「あ、ありがとうございます……」


 受付をしてくれた女性はバカにするわけではなく、心配そうにこちらを見ながらコピーされた用紙を俺に手渡してきた。

 俺は俯きながらそれを受け取り、逃げるように『ギルド』を出る。

 『ギルド』は洞窟内に作られた施設で、外は多くの冒険者が行き来しており、俺はそんな冒険者たちを眺めながら深いため息をつく。


「はぁ……最悪だ」


 鬱になった時のことを思い出す。

 自分には価値が無く、生きる資格さえも失った感覚。

 なんで俺ってこうなんだろう。

 【忍者】って……花形の【戦士】なんかじゃなくて、援護する【僧侶】でも良かった。


「なんで【忍者】なんだよ!」


 俺はキレ気味にそう叫ぶ。


「【忍者】かよ」

「あいつの顔覚えとこ。仲間には入れないでおこうぜ」


 クスクス俺を笑う声。

 逃げ出したい衝動に駆られるまま、俺は洞窟の奧へと進んで行く。


 洞窟の奧こそ、そこは『ダンジョン』で、降るための石造りの大きな階段があり、

それをとぼとぼ下りながら、俺は手渡された『ステータス情報』を視認した。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 万燈籠英二まんとうろうえいじ

 忍者 レベル1

 HP  9 MP   3

 力  5 防御  4

 魔力 5 素早さ 6

 運  3


 スキル

 忍足


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 何度見返しても【忍者】だ。

 力が強いわけでもなく魔力が高いわけでもなく。

 硬いわけでもなくそれなりに素早さがあるだけ。

 そんな『忍者】は冒険者たちの笑い者。

 ああ。俺の人生はこんなもんなんだろうな。

 浮上することなく沈み続ける石のような……

 役立たずで意味がない。

 石だったらまだ用途はあるにはあるから、俺よりマシか。


 俺は重たい足で『ダンジョン』に降り立ち、その全貌を見やる。


 『ダンジョン』一階層。

 ゴツゴツした岩で形成された空間。

 入り口から中央と左右に道が別れている。

 この『ダンジョン』は不思議なことに、日替わりで中身が変わるようだ。

 今日は三つの道があるが、道が一つの時も四つの時もあるとのこと。


「……とりあえず、思い出作りに配信してみるか」


 背負っていたリュックからドローンを取り出す。

 これは動画撮影用ドローンで、自動的にこちらを追尾してくれる優れ物だ。

 一念発起と、金が無いなりに初期投資をしてみたのだが……全てが無駄になってしまった。

 俺はそのドローンを眺めながら、いくらで売れるかなと既に計算を始めていた。


「あー初めまして。万燈籠英二です。今日から攻略系配信を始めようと思ってたんだけど……あはは。【ジョブ】が【忍者】でした。笑ってください。あ、やっぱり笑わないでください。笑われたら泣いちゃいそうだから」


 配信を開始するが、もちろん視聴者はゼロ。

 というか一人では冒険もできないし、ここで引き返すしかないのだがら配信自体に意味は無いのだけれど。

 でもさっき言ったように思い出作りだ。

 ドローンを購入したし、一度ぐらいは使っておかないとな。


「……ってことで配信は終わります。配信というか冒険も終わり。ついでに俺の人生も終わりだよ」


 俺は配信を切り、その場に座り込む。

 

「何やってんだこいつ」

「邪魔だよ邪魔。怪我してるならさっさと『ギルド』に行ってこい」

「それともモンスターにビビったのか? でもそれは仕方ねえよ。初心者あるあるだから気にすんな!」


 周囲からいろいろ言われるが、俺の耳には入ってこない。

 夢を見ることさえも許されない、生きる希望もなく、人生の終わりだよ。

 このままモンスターにやられて本当に人生の幕引きしてやろうか。

 

 そんな愚考を受け入れ俺は半笑いで歩き出す。ダンジョンの奧へ向かって。

 これ以上生きていても意味は無い。

 最悪の思考が頭の中を支配する。


「ははは……ははは」


 視界がぼやけてどこを歩いているのかも理解できていない。

 でも俺の未来が終わっていることだけは理解している。 

 疲れたしもういいよな。


 いい事の無い人生だったな。

 そう思案しながら歩いていた俺は、何かにぶつかってしまう。


「あ、すいませんすいません!」

「あ、いいえ。悪いのは俺の方で……なんで生きてるんですかね、俺」

「悪いのは全部私です……私が悪いんですよぉ」


 俺がぶつかったのはとんでもなく美人の女性。

 涙を流すその人を見ながら、俺はまたため息をついた。

 だが誰が想像できるであろうか。


 この女性との出会いが俺の人生を変えるだなんて。

 俺が大人気配信者になるなんて。

 俺が最強の冒険者になるなんて。 


 そんな未来が待っていることを知らずに、現在の俺はただ自分の境遇に絶望するばかりであった。


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