攻防の功
君から出た渾身の一撃は、この世に存在する物質すべてを凌駕するほど重く、心にのしかかった。
いつか、いつか訪れると予感してた打撃だ。
だが、いざ直面すると、恐怖が胸を支配した。
震える心臓を、狂気の最深部へ押し込め、覆い隠すように。
全てを悟られないように、言葉を放つ。
「いや、別に意図的にスルーしてたわけじゃないよ、ただなんかしらの事情があったんだろうな、と思った。ただそれだけだよ。本当にそれだけ」
「なら、今聞くけど、なんで夏期講習私服で来てるの?何か深い理由があるの?」
なぜだか分からないけど、君の挑発に引き寄せられてしまった。
僕が内密に進めてる物語が、君の視点で、君だけの視点で、どんな感情で見ているのかを知りたくなった。
その答えが僕に安心をくれるわけじゃないのは充分理解してる。
「いやこっちも特に深い意味はないんだよ。無くしたんだ、制服。すごいよね、制服なくすって。
部活行く前にいつも通りポイポイその辺に置いて練習行ったんだと思う、覚えてないけど」
「部室戻ってきて全員で大焦りだよ。大雨の日だったから、部室近くの用水路に流されたって説が1番有力なんだ。本当に恥ずかしい」
体の全ての力が抜け落ちた。
誰にも気づかれてない、誰にもバレてない。
巧みに解釈されている、全て隠し通せる。
「あ、ああ、そうなんだ。災難だったね。早く見つかるといいね、制服」
驚いている、実際、罪悪感やその他の重荷より、どこか安心感の方が占めている。
清水くんが僕のせいで困っているのは、事実。
それなのに心は安堵で満ちている。
「ありがとう、相田くんも、制服なくさないように気をつけてね。そんなことないだろうけど、絶対」
清水くんは、多分動揺してる僕を見て、反応に困ってると解釈し冗談言ってくれたんだろう。
その優しさをあと何度、踏み滲めばいい。
「じゃ、またね。ラストワン賞近くなったら教えてよ」
「うん、おしえる、またね」
遠くなる君の背中を見て、ようやく罪悪感が湧き上がってきた。
どうやって君を、愛する。
いま、僕ができる最善の策は、きっと全てを話して、制服を返してあげる事だろうけど、今更遅すぎる。
思考が定まらない。
「なあ、お前、あいつ友達なの?あいつ見る目、何にそんな怯えてるの」
黒沢のその一言が、僕の巡る、思考を止めた。
「お前が良ければ、聞かせてよ、今何を抱えてるか」
僕はこの人を信用していいのだろうか。
もう何も分からないけれど、口だけが動いた。
「あのさ、黒沢、おれ犯罪者なんだよ。なにかの比喩とかじゃなく、本物の。これだけ言っておく、シフト終わったらまた話す」
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