感想⑨

「パドックの馬は見られている」大和田よつあし様

https://kakuyomu.jp/works/16818093091093355995

 祖母の遺言でギャンブルをやったことがないとりちゃんは、競馬には疎いのですが、真面目な山峯君(フクちゃん)と僕っ娘井上さん(キューコ)のラブコメとして楽しく読みました。

 特に共感を覚えたのは冒頭で彼が線を引くところです。性格的には能天気なのでどちらかといえば彼女寄りですが、とりちゃんは絵も描くので手描きで引いた線によってその日の調子を測る、というのはよくやります。線が上手く引けないと、たしかに体調が悪くなったり些細なミスを連発したり、悪いことを引き寄せてしまう気がします。

 物語を全体から見て乱れた線が彼にとって凶兆だったのか最後の時点ではまだ分かりませんが、ある意味素敵な転換期だったのではないかと思います。話のテンポもよく二人のキャラが立っていて、交わす会話も軽妙で最後まで楽しめました。キューコちゃんの笑い方が好きです。


「もしも(し)、あの」長尾たぐい様

https://kakuyomu.jp/works/16818093089975354336

 ジャンルはSFですが、文芸作品としても完成度の高い作品だと思います。叙情的なSFはもろ好みのテイストです。変則的ではありますが、ボーイミーツガールなお話も大好物です。

 心理描写も良かったですね。思春期の少年ネオの葛藤や不安がリアルに伝わってきて、四歳年上のレトロとの会話も自然でスムーズでした。二人とも賢い……。とりちゃんは話す言葉は伝わればいいと思う派なので英語の文法は未だによく分かりません。タイトルに含んだ意味を考えると、電話での会話も英文の流れも納得です。

 お互いの存在を電話というツールで繋ぐところもにくい演出です。懐中電灯のぼんやりした光に浮かび上がる少年を想像してみると、暗中模索の思春期の暗闇の中に光が灯るような暗喩のようにも思えます。普段は少し年上ぶっているレトロが、ネオの電話が中断することに対して不安げな様子を見せるところに、年相応の女の子の顔が見え隠れしてキュンとしました。

 

「ジューガー・リャンは何をしたかったのか」四谷軒様

https://kakuyomu.jp/works/16818093090291350061

 おお、この二人が来ましたか、と意外な着眼点に驚きました。歴史上の事実は動かしがたいものですが、真実はそこに生きた人の数だけあるというのが持論です。

 激動の時代にあって突出した人物ばかりがクローズアップされがちですが、傑物ではなかったものの彼の生き方も慣用句になるほどではなかったのではないかと思います。周りがすごすぎたんですよね。実際在位期間は長かったわけですし、ジューガー・リャンの存命時にはその言によく従い、現代にいたら部下の話をよく聞く良い上司なのではないでしょうか。彼は平和な時代に生まれた方が能力を発揮できたのかもしれません。天才と呼ばれたリャンのことですから、その資質を充分に見極め、未来を託したのかもしれないと想像しました。

 柔らかな光の降り注ぐ秋の日の昼下がり、自分なりのやり方で臣下を守ったおとこが静かに佇む姿が目に浮かびます。


「ハッピーワンホール!」霙座様

https://kakuyomu.jp/works/16818093091053954056

 三十路手前というのは、第二の思春期のように思います。社会に出て無我夢中で生きてきた20代を経て、本当の意味で大人になるとはどういうことか肌身で知る時期なのではないでしょうか。孔子様も「三十にして立つ(独立して世に出る自信を持つ)」と言っていますからね。でも割といい歳したとりちゃんはそれが未だに分からないので永遠の思春期です。

 そんな微妙なお年頃の佐歌さんの揺れ動く女心の描き方が素敵だなあと素直に憧れます。多分、とりちゃんだったら彼氏の買って来たケーキを振りかぶって顔面に投げてしまいそうです。裏切者には鉄槌を、です。

 もちろん奈知君の作ったケーキは大事に食べます。同級生でもあった彼との会話の中から、甘酸っぱさなども感じ取れたりしてキュンな予感もいたします。読み終わった後、苺のショートケーキが食べたくなりました。


 皆様、素敵な作品をありがとうございました。これにて感想は終了です。至らぬことも多かったかもしれませんが、楽しんでいただけたら幸いです。


引用:孔子「論語」

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