輪廻の契

茜部 綱

序章 断ち切られる縁、紡がれる絆

 この国では、語り継がれる言葉がある。


「人の心に宿るえんは、時にあやかしを呼び寄せる。縁を断つことなくして、平穏は訪れぬ――」


遥か昔より、この世には見えざる縁が張り巡らされているという。

人と人を結びつける絆、そして人と妖を引き寄せる忌まわしき糸。

その縁が紡がれる限り、完全な平穏は訪れない。


妖――彼らは人に紛れ、人の心の隙間を覗き込む。

人間の欲望や嫉妬、恐怖....そうした感情が縁となり、その隙間に妖が入り込む。

そして、感情が生む闇に取り憑き、やがて人の世界を侵食する。


だが、その糸を断ち切る者たちがいた。

霊術を操り、妖との「縁」を断つことで世に平穏をもたらす。その力は代々受け継がれ、人と妖との均衡を守り続けてきた。

彼らの名は「縁師えにし」。


その力は一朝一夕に得られるものではない。限界を超えた鍛錬、血の滲む修練の末に、初めて縁師として名乗る資格を得る。そして、その道の始まりとなる場所が「天元道学院てんげんどうがくいん」――若き縁師たちの育成を担う学び舎だ。


学院に集うのは、十二歳から十八歳までの少年少女たち。

彼らは己の弱さと向き合いながら、術を学び、剣を振るい、心を鍛える。

だが、試練の先には常に死が待ち受けている。

妖を前にして恐怖を克服できる者だけが、真の縁師として歩むことを許されるのだ。


そして、この動乱の世においても一際異彩を放つ存在がいた。

六道家りくどうけ」である。


六道家と呼ばれる六つの名家――高天家たかまけ奈落家ならくけ獅子崎家ししざきけ津々楽家つづらけ田頭家でんどうけ暁家あかつきけ――は、他の縁師たちを凌駕する力を持つと言われている。

彼らはその名において世の秩序を守り続けてきたが、その血筋が持つ力は、時に光を呼び、時に闇を招く。


光と闇の狭間で、新たな物語が動き出す。

縁は断たれ、同時に新たな絆が紡がれる。

全ては、始まりの夜に繋がっていた――。

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