2
「……何?」
聞こえてきた声に、リーリアは涙をグッと堪えて音が聞こえる方へと歩いて行きます。音に向かって小さな丘を登ると、リーリアは丘の向こうを覗き込みました。そこにいたのは、
「マーモノ、ナーマモノ、ちーがいはなーに?」
「ケンタウロスの……子供?」
リーリアの呟きの通り、そこにいたのは下半身が馬になっている魔物、ケンタウロスでした。ケンタウロスは見るからに子供で、その大きさは子供のリーリアと比べても頭一つ分以上小さな物でした。小さな体を可愛らしい子供服で包み、手に持った長い草を楽しそうに振り回しながら謎の歌を歌っています。リーリアにはその姿は人間の子供と同じ様に見えました。
ケンタウロスの子供の姿を見たリーリアは、
(あの子に道を聞いたら帰れるかも!あっ……でも恐い魔物だったらどうしよう……?でも子供だし、大丈夫のはず……でもでも!もし危ない魔物だったら……!?うぅー……私はどうしたらいいのー!?)
さっきの事もあって決心が付かずにリーリアは悩みます。そんな風にリーリアが悩んでいると、
「はっ!?そこにいるのは誰なの!?」
リーリアの気配に気付いたケンタウロスがリーリアいる方向に向かって声を掛けました。ケンタウロスの言葉に、
「あっ、怪しい者じゃないです!」
リーリアは慌てて立ち上がりました。ですが、ケンタウロスはリーリアを見て首を傾げます。
「見覚えの無い人なの……アカ姉かアナちゃんだと思ったのなの……お姉ちゃんは誰なの?」
「えーっと、私はリーリア・コールグレって言うの。今日、この村に引っ越してきたんだ。」
緊張しながらもリーリアは質問に答えます。すると、
「今日引っ越してきたのなの……?……もしかして、お姉ちゃんはナマモノなの!?」
ケンタウロスは目を輝かせてリーリアへと近づいてきました。
「えっ……?ナマモノ……?それって……どういう?」
ケンタウロスの言う言葉の意味が分からず、リーリアは首を傾げます。一方、ケンタウロスは問い返すリーリアに興奮した様子で、
「イルバァバが言っていたのなの!今日、ナマモノの国から引っ越してくる人がいるって!だからお姉ちゃんはナマモノじゃないのなの!?」
目を輝かせながら尋ねてくるケンタウロスの言葉にリーリアは少し考えます。
「あぁー……うん、そうだよ。私は人間の国から引っ越してきたんだ。こっちでは人間の事をナマモノって言うの?」
リーリアの質問にケンタウロスは首を横に振りました。
「ちょっと違うのなの。魔力を持たない物の事をナマモノって言うのなの。」
「へぇー、魔物の国ではそう言うんだね~……それはそうとして、実は教えて欲しい事があるんだけど……そういえば、あなたの名前は?」
リーリアに尋ねられたケンタウロスはそこで自分が名乗っていなかった事に気付きました。ケンタウロスはリーリアに深々とお辞儀をします。
「大変失礼しましたのなの。ターテャンの事はターテャンと呼ぶといいのなの。皆そう呼んでいるからそうするといいのなの。」
「うん、分かった。じゃー、そうするね。よろしくタータン。」
「タータンではないのなの。ターテャンなの。」
「あっ、ごめんね。えっと、ター……テャン?」
言い慣れない発音にリーリアが戸惑いながら名前を呼ぶと、ターテャンが嬉しそうに手を上げました。
「はい。ターテャンなの。」
手を上げるターテャンの姿はとても微笑ましい物で、リーリアは少し笑みを浮かべながら言葉を返しました。
「フフッ、改めてよろしくね、ターテャン。それでねターテャン、よかったら村への帰り方を教えてくれないかな?」
リーリアの言葉にターテャンは首を傾げて考えました。そして、
「もしかして……迷子なの?」
悪気の無いターテャンの言葉がリーリアの胸に突き刺さります。
「うぅ……ごめんね。実はそうなんだ……情けないよね。ターテャンよりも大きいのに迷子だなんて……」
自分よりも小さな子に頼らなければならない事にリーリアは泣きそうになりました。その姿を見て、
「だっ、大丈夫なの!来たばっかりだったら仕方ないのなの!次は迷子にならなかったらいいのなの!」
ターテャンは子供ながらに必死にフォローをします。ですが、そのフォローの言葉もリーリアにはもっと辛い事を幼いターテャンには分かりませんでした。
「うぅ……ありがとう……はぁー……私何やっているんだろう……ターテャンみたいな小さい子にフォローまでされて……」
恥ずかしさと情けなさがリーリアの心の中でどんどん大きくなっていきます。リーリアの様子に、ターテャンは慌てました。
「マズいのなの!偶にアカ姉がグッタリしている時になる奴と同じ匂いがするのなの!えっと~……えぇっと~……こういう時は~……」
考えるターテャンの頭の中に一つの名案が浮かびます。
(そうなの!こういう時は別の話をすればいいって聞いたのなの!)
「お姉ちゃん!お姉ちゃんの名前は何なの?」
急にターテャンに名前を尋ねられたリーリア自分の名前を話していなかった事を思い出します。
「私の名前……?あっ、そうだ。そういえばまだ私の事を話していなかったね。ごめんね。私はターテャンの名前を聞いたのに……私はリーリア。リーリア・コールグレと言うの。改めてよろしくね。」
「リーリア……という事はリアリアなの。リアリアよろしくなの。」
「リアリアって私のあだ名?元の名前から短くなっていないけど……」
リーリアはターテャンの付けたあだ名に首を傾げましたが、
「やったなの~。初めてのナマモノのお友達なの~。リアリアなの~。」
嬉しそうに小躍りするターテャンの様子に、
(ターテャンが嬉しそうにしているし、まぁ、いっか。)
それ以上言おうとするのを止めました。そして、
「それで、よかったら村への帰り方を教えてくれるかな?」
もう一度ターテャンに帰り方を尋ねました。するとターテャンはリーリアに向かって挙手をして、
「教えてもいいのなの。でも、その前に一緒に向こうの丘に行くのなの。丘には綺麗なお花が一杯咲いているのなの。」
リーリアに一緒に行こうと誘いました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます