イナカナマモノ
オノヒロ
0日目 引っ越し
1
ドッタッ、ドッタッ、ドッタッ、
なだらかな丘が重なり合う丘陵地帯の間を、一台の幌付き馬車がゆっくりと進んでいきます。御者席を見ると、そこには馬を操る男性と景色の楽しそうに見る少女の姿がありました。
少女が御者の男性に声を掛けました。
「うわ~、綺麗な景色だね、お父さん!私こんなにも草ばっかりの景色って初めて見たかも!」
少女の楽しそうな声に少女のお父さんも笑みを浮かべました。
「確かにリーリアはずっと王都で育ってきたからこういう景色は初めてかもしれないね。リーリアの言う通り、この辺りは本当に綺麗で良い所なんだよ。」
鮮やかな新緑の丘をお父さんは穏やかな瞳で見つめます。その時、
「お父さん!あれ見て!?」
リーリアがお父さんの服の袖を引っ張ってある方向を指差しました。お父さんがリーリアの差した指の先に視線を向けると、
「モォー!」
そこには丘陵地帯の草を食む牛の姿がありました。しかし、それは只の牛ではありません。それは普通の牛の数倍はあろうかという巨大な牛だったのです。
「お父さん、お化け牛だよ!」
リーリアは牛を指差しながら興奮した様子でお父さんの顔を見ます。更に、
「わわっ!他にも沢山来た!?」
なだらかな丘陵の向こうから次々に牛達がやって来ました。現れた牛の群れも皆同じ様に巨大でした。
「皆凄く大きい……」
興奮が収まると共に呆然とリーリアは牛達を見つめます。
「牛さん、あれだけ大きいとちょっと恐いかも……」
リーリアの口から心の声が漏れました。そんなリーリアの不安を消すかのように、
ポンッ、
お父さんがリーリアの頭に手を置いて優しく撫でます。
「リーリア、あれはアプスっていう牛でね。この辺りでは一般的な牛なんだよ。それに見た目は大きくて恐いかもしれないけど、穏やかで優しい子達が多いんだ。」
「へぇ~……そうなんだ……」
恐がっていたリーリアの顔が少し和らぎます。
「穏やかだったら、きっと私とも仲良くしてくれるかな?」
「大丈夫だよ。きっと仲良くしてくれるさ。」
リーリアを安心させる様にお父さんは優しく答えると、
「それに、アプスぐらいで驚いていたら引っ越し先で身が持たないぞ?何て言っても、ここは魔物の国なのだからね。」
どこか茶目っ気を感じさせる様なお父さんの言葉は青空へと吸い込まれていきました。
親子が乗る馬車がゆっくりと丘陵の間を進んでいきます。その光景を、遠く丘の上から見ている者がいました。
「見た事無い物が動いているのなの……もしかして、アレがナマモノなの……?」
……
この世界には二つの種族がいます。一つは生物。人間だけでなく、全ての魔力を持たない生き物の総称です。そして、もう一つは魔物。魔力を持った生き物の総称で、特に人間の様に文明を築ける者達を魔族と呼ぶ事もあります。二つの種族は争っていた時期もありましたが、現在は住む場所を別つ事で平和を維持しています。この物語はそんな世界の片隅。魔物の国の片田舎のお話。
……
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