青と赤と白と君と

ハイリ

第1話

あの日、もし動いていたならば、もし声をかけていたなら、

そんな「タラレバ」が積もる。


出てきた言葉を声に出す代わりに

私は咀嚼して飲み込んだ。

いや、咀嚼したつもりでいただけなのかもしれない。

咀嚼せずにただ飲み込んだだけなのかもしれない。

だから15年だった今でもこの積もったものを退かせないでいるのかもしれない。


私ー佐伯蒼(さえき あおい)は15年まえの後悔を33になった今でも

背中に張り付けて生きている。

山の中にある小さな町【山谷町 やまがまち】で私は小さなころに引っ越してきた。

誰も知らない土地で10歳離れた弟-佐伯大翔(さえき はると)と私を育てていくことは母-佐伯夏(さえき なつ) 一人で育てていくことは大変だったのだろう、

母は頭のてっぺんのキラキラ光るものを隠すために

よく髪を茶色に染めに出かけていた。



もう何回も思い出している昔の記憶を私は今も思い出している。

記憶とは良くも悪くも頭にこびりついているもので、

どんなに新しいものを入れていっても鮮明に覚えているものは

においや音までも何度でも体験した気になれる。

嫌気のさすものでも、もう一度体験してみたいものでも

忖度なしで再現される。


職場からの帰り道、肩にかけていたカバンが微かに震えていた。

大体の原因の見当はついていたので、その原因を手に取るために

カバンの中を探った。

カバンから手を出すと 大翔から電話来ていた。


「もしもし。」

少し疲れ気味な声で電話に出ると聞き慣れた低い声が耳に入る。

「もしもし、蒼ちゃん。今大丈夫?」

こちらの都合を気にしつつも何か話したいことがあるような声だった。

こういう時はこちらに不都合なことがあるのがこの弟をもって23年の姉心が

警告を出している。

適当な言い訳を思いつけなかったのと家に着いたのとで

断れなかったので用件を聞いた。

築40年の古い二階建てのアパートに入りながら少し待つように弟に伝えた。

世帯数は8件小さなアパートに私は一人息をひそめるように暮らしている。

家の鍵を開け弟と世間話をしながら部屋に入る。

お気に入りのコップを手に取りポットに入っていたお湯を注ぐ。

ぬるい温度の白湯は猫舌の私にとって適温だった。

一通りのことをし終わったので用件を聞くことにした。

「いや、この前たいにぃに会って色々盛り上がって今度みんなで集まろうってなったんだけど蒼ちゃん来ない?ていうか、蒼ちゃんも来るってたいにぃに話しちゃったんだけど。」

「は?」

飲みやすいはずだった白湯をせき込みながら一気に吐き出す。

つい口が滑ってと弟は言った。


たいにぃ―蓮田大樹(はすだたいき) とは実家の同じアパートに住んでいた

同い年の男の子のことだった。そして私の初恋の人だった。

弟よ。勝手なことを言うな。

どうしたものかと私がため息をつきつつ黙り込んでいると弟は口を開いた。

「マジでごめん、でも蒼ちゃんにみんな会いたがっていたよ。

たいにぃだけじゃなくて咲ちゃんや美穂ちゃんも。」


{みんな揃っているから行きたくないんだよ。}

そう言いかけてやめた。


「あ、仕事の連絡来た。ごめんまたあとでね。」

そう言い残して強引に電話を切った。 

体の力を一気に脱いでソファーに飛び乗る。


弟にとってあの頃のことは戻りたくなるくらいに懐かしく温かい思い出なのだろう。

仰向けになってサカバンパスピスの抱き枕を胸に抱えながら天井を見る。


私はもうあの頃に戻りたくない。

思い出したくもない。

大翔、私はあんたが思うより薄情な人間だよ。

そう思いながら化粧も落とさずに眠りについた。

その日の夜はなんだか長い夜だった。







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