第2話  本当に怖いもの

 動揺をしながらも次の手術では平然とした様子を浮かべることに専念した。そして、この日担当した二人目の手術で私は再び忘れられない体験をするのである。二人目の患者は大腸に大きな癌があり、それを取り除く手術であった。お腹をメスで開けていくと、そこには見慣れない謎の物体が肝臓のすぐ下にくっついていた。真っ黒で、まるで人の脳のような形をしたものだった。突然出てきた物体に仰天する私であったが、次の瞬間、私はさらなる事態に衝撃を受ける。なんと、その物体が小刻みに動き出したのだ。そして、肝臓から離れ私の手元まで来て私に触れ、そして溶け出していくのであった。さらには溶けた物体から、見覚えのあるぬいぐるみが出てきたのだ。そのぬいぐるみの目は白くなっていて、お腹の当たりが血まみれになっていた。そのぬいぐるみは私に何かを訴えているようだった。この時すでに私は手術どころではなくなっていた。私は他の医師に手術を変わってもらい、手術室をあとにした。 

 手術室でみたあの物体は何だったのだろうか。あの物体に対する恐怖感情は今でも忘れることができない。だが、それよりも自分のミスのせいで大切な人の命を奪ってしまったという記憶のほうが私を日々精神的に強く追い込むのである。

 今日は彼女が死んだ命日だ。今からお墓に行くからね、わが娘よ。


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本当に怖いもの Sugie Bunko @mintiti

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