本当に怖いもの

Sugie Bunko

第1話 こびりつく思い出

 外科医である私は今まで何千人者の患者の手術に関わってきた。時には誤って、患者を傷つけてしまうこともあった。救えなかった患者も大勢いる。当然患者の身内に恨まれることも山ほどあった。外科医である以上、避けられないことである。しかし、そこはしょうがないものだと自分に言い聞かせ、割り切らないとこの仕事は続けられない。故に私はたとえ手術に失敗しても、反省はするが引きずることはなかったし、そうしないように努めてきたのだ。しかし、そんな私にもいつまでもこびりついて離れようとはしない手術の思い出がある。その手術のことを思い出すだけで今でも心苦しさと恐ろしさ、そして悲しさで胸がいっぱいになる。 

 そう、あれは私が医者としてキャリアを順調に築き上げていた時に担当した手術でのことだった。その時に、私は一日に二人の患者の手術を行った。一人目はステージ一の肝臓癌の患者であった。その患者は早期発見で癌を見つけることができたため、 手術をすることで救われることが決定的であった。手術をする前からその患者とは何度も 何度も対話を繰り返してきた。とても可愛らしい女の子でいつもお気に入りのくまをもっていた。手術で元気になってくれるよう、私も手術に対して人一倍気持ちが高ぶっていた。しかし、その手術で私はとんでもないミスをしてしまうのだ。切り取るべき癌の近くの主要な動脈を切ってしまい、患者を大量出血させてしまったのだ。患者の血圧は一気に低下していき、一気に容態が悪くなっていった。それがきっかけで彼女は若くして亡くなってしまったのだ。頭の中が霧で覆われていくようであった。

 しかし、そんな物思いにふけってる時間はなく、手術室にいた看護師に促された私は、気持ちを死に物狂いで切り替えて次の手術室に向かったのだ。 

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