第11話
吸血メイドと奴隷姫 11
体育と課外活動の授業が終わり、全校集会が開かれる。気を利かせた校長先生が短い時間でお話を終わらせてくれたものの、生活指導の先生が伸びて、結局予定通りの時間に体育館から教室に戻る。夏の体育館はやはりどうしても蒸し焼き状態で暑くて汗をかいてしまう。
莉亜と玲衣ちゃんの二人と話しながら教室に戻り、少しすると先生が入ってきてホームルームが始まる。とは言っても、簡単な話と、配布物の説明、注意事項の説明が終われば、他にすることはあまり多くなく、なんとなく生徒たちは4時間目が終わるまで雑談タイムに突入する。
さすがに授業中なので出歩きはしないが、私の場合、すぐ隣が玲衣ちゃんなので、雑談相手に困ることもなく、帰りの時間を喋りながらゆったりと待つ。
「今日は13時に莉亜のうちに集合。ひより、大丈夫そう?」
「うん。バスで行くつもり。」
「そっか、わかった。」
お勉強会は毎度玲衣ちゃんの家だったので、今回のお疲れ様会は莉亜のお家で開催されることになった。莉亜の両親は共働きで、この時間は家族が家に誰もいないから、めいいっぱい遊べると莉亜は喜んでいる。できるなら私も二人を家に呼んでみたいけれど、私の家はちょっと特殊だから呼びにくい。
思えば私もお嬢様も友達を家に呼んだことはなかった。私は特に不満はなかったが、お嬢様は気を遣っていたのだろうか。だとしたら、自由に友達が呼べなかった彼女に少し申し訳なく思う。私たちの存在が邪魔になってしまうのは、それが仕方なかったとしても私の望むところでは無い。
そんなことを考えながら玲衣ちゃんと喋っていると、やがて授業時間が終わり、帰りのショートホームルームの後に各自帰宅となった。私は玲衣ちゃんと莉亜と二言三言話して、準備のために一旦家に戻る。長期休み前は持ち帰る荷物が多くて、分散を怠った莉亜は泣きそうだったが、無事に帰れていることを祈る。毎度の癖で、持ち帰る荷物を手伝おうと無意識にお嬢様を探してしまったが、クラスの解散が私達より早かった様子の彼女は、すでに帰ってしまっているようだった。
家に帰って、制服から私服へと着替える。制服のブラウスは少し汗で濡れてしまっていて、洗濯カゴに入れておく。ゆったりとした白いカットソーに紺色のロングスカートを合わせて、ベルトを締める。上から薄めの上着を羽織ったら荷物をまとめる。
家から出る前に、洗濯カゴを洗濯場に置き、他のメイドが用意してくれていた軽食を食べて、玄関へと向かう。
「あら、出かけるの?」
その途中でお嬢様と会った。
「はい。友人と遊ぶ約束をしておりまして。」
「そう。」
私の回答に、お嬢様は興味がなさそうに返してくる。
しばらくそのままお嬢様は何も言わなかったが、少し考えてから、
「帰ったら私のところに来なさい。」
と私に言って、ふっとこの場をさっていった。
「かしこまりました。」
その後ろ姿へそう返して、私は扉を開けて外へ出る。
肌を出していなくても、服を貫通して刺してくるような暑さを感じながら、私は莉亜の家へと向かった。
◆◆◆
莉亜の家に着いてインターフォンを鳴らすと、莉亜と先に着いていてた玲衣ちゃんが出迎えてくれた。待たせてしまったかと思って謝ったが、そんなことはないとのことで、お菓子を広げておしゃべり会が始まった。
「そういえばさ、」
そう玲衣ちゃんが少し不思議、と言った表情で切り出す。
「この前、白城さんに話しかけられたんだよね。」
「えっ。」
莉亜が驚いた声を出し、私は目を見開く。
「テスト期間中にさ。」
「何話したの…?」
理亜がきく。私は言葉が詰まって出てこない。
「あなたいつも学校に残って勉強しているの?って聞かれて。」
玲衣ちゃんが私たちを見て続ける。
「私はテスト期間だけ、部活あるしって。莉亜とひよりは毎日だよって答えたけど。」
「そっか…。でもなんでだろう、突然。」
「そうなんだよね…。びっくりしちゃった。」
「ひよりはなんか思い当たることある?」
おそらくこの中で一番仲がいいであろう、私に話が振られる。でもあまり考えがまとまらず、曖昧に、わからないと答える。
「そっか。」
玲衣ちゃんが、うーん、と声を漏らす。
彼女の話と感想から察するに、やはり玲衣ちゃんとお嬢様の交流はほとんどない。そしておそらく莉亜とも。疑問が1つ解決するが、ならばなんで、私との関係を聞かれたのか、今回そんな質問を投げかけたのかを考えなければならない。
「まぁ、なんとなく気になっただけかもしれないけど。私たち仲いいし。」
「うん…。でも多分私たちが勉強していたところを見て、だよね。」
私は頭の中で同意して、玲衣ちゃんが、そういうことだと思う、と応える。この前のことで予想はできていたけれど、確信に変わるとやはり少し気持ちが重い。
「でも、だからなに?って話だとも思うんだよね。なんでそんなこと、わざわざ聞いたんだろ?」
なんとなくではとは言ったものの、やっぱり気になるらしい玲衣ちゃんが言う。
「うーん…白城さんとひよりちゃんって凄く仲良かったし、気になったんじゃない?」
「だけどさ、それならひよりに直接聞けば良くない? ひより、喧嘩でもした?」
「特には…。」
「そうなんだ。」
莉亜が少し驚いたように言う。
「ごめん、最近全然喋ってなかったみたいだから、なんかあったのかと思ってた。」
私は、あはは、と誤魔化すが、心が痛い。避け始めたのは私なのだから。
「そこなんだよね、なおさらおかしくない? 最近あんまり喋ってないのに、そんな質問してくるとか、ストーカー?」
咄嗟に否定したくなって、黙る。
「玲衣、流石に少し失礼じゃない?」
「いやさすがに冗談だけどさ。」
「うん。わかってる。」
二人がうーん、と考える様に上を向いて、私はうつむく。
少し時間は流れて、私たちの話題は移り変わり、先ほどの話題は色々な話の中に埋れていく。
途中から、莉亜が準備していたらしいトランプで遊んだり、玲衣ちゃんが持ってきた香水のお試し会があったりして、私も途中から頭をなんとか切り替え、最終的に楽しい時間を過ごし切る。
私が持ってきた、お気に入りのお菓子も好評だった様で、一番最初になくなっていた。
次に会う約束と、次はゲームをしてみよう(玲衣ちゃんが、最近出る携帯ゲーム機を予約しているらしい)と言う話がでる。
「どうせなら、二人とも、私の家泊まる?」
帰り支度をしながら、玲衣ちゃんが私たちに尋ねてくる。
「え、いいの?」
「もちろんいいよー? する?」
「したい!」
「ひよりは?」
私も莉亜みたいに即答したかったけれど、メイドをしている以上、勝手にそう決めるわけにはいかない。お嬢様に許可を貰わなければ。
「うーん、ごめん、日にち次第になっちゃうと思う…。」
私が曖昧に応えると、玲衣ちゃんが笑って
「うん、いいよ。この後メッセージで決めればいいし。別に泊まりじゃなくてもいいし。」
と言ってくれる。
最後に上着を羽織って、荷物を持ち、みんなで片付けた莉亜の部屋を後にする。
「それじゃ、莉亜、またね。」
「莉亜、今日はありがとう。」
「ううん!こちらこそだよ、二人とも気をつけて帰ってね!」
またね〜!と玄関から笑顔で手を振っている莉亜に、手を振りかえしながら、私たちは途中で別れてそれぞれの家に向かった。
そして、このときすっかり忘れていた私は、家の玄関のドアを開ける前に、お泊りについて考える。そして間髪入れずに思い出す。今日、帰ったらお嬢様に呼び出されている、そのことに。
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