第七話 集結、最終決戦へ

 東西南北、全ての方角での病魔との戦いが終わり、八人は合流していた。


「皆さん、お疲れ様です。お怪我はありませんか?」


 田平たひらが全員に声をかける。全員、大きな怪我はしていないようだったが、その表情には疲労の色が浮かんでいた。


「俺は大丈夫です。ちょっとかすったくらいなんで」

「……! すみません、スズシロさん……」


 大地だいちの言葉に、鈴菜すずなは申し訳なさそうに謝る。そんな彼女を見て、大地は慌てて手を振った。


「いやいや! こんなの大したことないから!」

「でも……」

「本当に大丈夫だってば!」


 大地は鈴菜を安心させるように笑う。そんな彼の様子を見て、鈴菜も安心したように微笑んだ。


「まあ、なかなかやったんとちゃう? ……俺は疲れたわ」

「あら? 私はまだまだいけるわよ?」

「なっ……今のナシや! 俺やってまだまだいけるわ!」

「ふふっ……無理しなくてもいいのよ?」

「無理なんかしとらんわ!」


 芹田せりた奈沙なずなはいつも通りの軽口を叩き合う。そんな二人の元へ、葉子ようこが駆け寄って行った。


「セリさん、ナズナちゃん、ケンカしちゃだめですよ!」

「あっ……ハコベラちゃん……」

「い、いや……ケンカはしとらんよ! な、ナズナ!」

「え、ええ……そうね!」


 葉子の言葉に、芹田と奈沙は慌てたように答える。そんな二人の様子に葉子は首を傾げていたが、すぐに笑顔を浮かべた。


「そうでしたか! ならよかったです!」


 そう言って笑い、駆けて行く葉子。そんな彼女の後ろ姿を、芹田と奈沙はホッとしながら見つめる。


「あっぶな……危うくバレるところやったわ」

「ホントよ……まったく、アンタのせいよ」

「はぁ!? なんでやねん! そっちやろ!」


 再び言い合いを始める二人。そんな様子を、少し離れた所で荘一そういちが微笑ましそうに見ていた。


「あれ? なんでお父さんがここにいるの?」


 芹田たちの元から戻ってきた葉子は、きょとんとした表情を浮かべて荘一に尋ねる。そんな娘を見て、彼は嬉しそうに笑った。


よぅ……っと、ハコベラを心配してね。お父さんが一緒なら安心だろう?」

「! うん! お父さん、ありがとう!」


 葉子は満面の笑みを浮かべて荘一に抱きついた。そんな彼女を優しく抱きしめる荘一。その姿はまさに、仲の良い親子そのものだった。

 そんな彼らの姿を見て、田平たひら春枝はるえへと視線を向けた。


「ハコベラちゃんの……いらっしゃってたんですね」

「ええ。……まったく、困ったものです」


 ため息をつく春枝に、田平は苦笑を浮かべる。


「相変わらずなんですね。ハコベラちゃんも、お父さんに似て無鉄砲というか……着いていくだけで精一杯でした」

「元気なのはいいことですが……」


 春枝はそう呟くと、葉子へと視線を戻した。すると彼女と目が合い、にこりと微笑まれる。春枝はやれやれと首を振った。


「あの父娘おやこには手を焼きますね」

「ふふ……」


 春枝の呟きに、田平は思わず笑いをこぼす。

 普段は冷静な春枝が、葉子と荘一のことを語る時だけ、少し表情が柔らかくなるのだ。女将おかみとして客へ接する時とも違う、自然な表情。それはきっと、春枝が葉子と荘一のことを心から大切に想っているからなのだろう。田平はそう感じていた。


「さて……では皆さん、最後の仕上げといきましょう」


 春枝の言葉に、全員が彼女へと視線を移す。そして同時にうなづいた。


「「はい!」」


 荘一を除く七人は円を描くように並び立つ。そして全員同時に目を閉じ、意識を集中させた。するとその体からまばゆい光が溢れ出していく。その光は徐々に広がっていき、辺り一帯を包み込んでいった。……そして次の瞬間、光の中から巨大な影が現れる。


「な……!?」


 突然現れた巨大な影に、荘一は驚愕の声を上げる。しかし他の者たちは、冷静に影を見つめていた。


「あれが……病魔の本体です」


 春枝は影を見つめながら言う。その影は一見すると人型に見えるが、よく見るといくつもの目があり、そのどれもがギョロリと春枝たちを見下ろしていた。


「毎年見てるけど、やっぱり気持ち悪いわね……」

「せやな……。何度見ても慣れへんわ……」


 奈沙と芹田はげんなりとした表情で言う。そんな彼女たちの隣では、鈴菜が険しい表情を浮かべていた。


「今回は、いつもより大きいですね……」

「それだけ、今回の病魔が強敵ということでしょう」


 春枝の言葉に、鈴菜は表情を引き締める。そんな彼女の肩に手を置く者がいた。それは大地だ。


「大丈夫。俺たちなら勝てるよ」

「スズシロさん……はい、そうですね!」


 鈴菜の顔に笑顔が戻る。二人は顔を見合わせると、小さく笑い合った。そして二人は春枝たちの方へと向き直る。


「皆さん、準備はよろしいですか?」


 春枝が確認するように尋ねると、全員が力強く頷く。それを見た春枝は満足そうに微笑むと、杖を構えた。


「では……皆さん、参りましょう」


 春枝の言葉を合図に、六人は一斉に駆け出した。そしてそれぞれの道具を手に、影の病魔に立ち向かっていく。


「はああぁっ!!」


 最初に攻撃を仕掛けたのは芹田だった。彼は勢いよく飛び上がると、刀を振り上げる。そして影の病魔に向かって斬りかかった。……しかし、病魔は刀が貫かんとした部分から分裂し、二体になる。そしてそのまま二体同時に芹田へ襲いかかってきた。


「なあっ……!? 聞いてへんで、そんなん!」


 芹田は驚きながらも、間一髪のところで攻撃を避ける。そして素早く体勢を立て直すと、再び刀を構えた。だがその時、背後から声がかかる。


「セリさん! 下がってください!」


 その声に反応するよりも早く、芹田の目の前に葉子が躍り出た。彼女は病魔に向かって二本の短刀を構える。そして目にも留まらぬ速さで斬りかかった。


「やあああっ!!」


 短刀は病魔を的確に捉えた。だが、またも病魔は分裂し、合計で四体になる。


「っ……! 駄目、なの……!?」


 葉子が悔しそうな声を上げる。そんな彼女へ、二体の病魔が飛びかかった。


「させるかぁ!」


 そこへ大地が滑り込み、葉子をかばう形で盾を構えた。そして病魔に向かって拳を突き出す。病魔はその衝撃に吹き飛ばされた。


「大丈夫!?」


 大地は振り返って葉子へ尋ねる。しかし葉子は首を横に振った。


「私は平気です……だけど、また増えちゃいました……」


 葉子はそう言うと、病魔へと視線を向ける。するとまた分裂したのか、今は六体になっていた。


「これは……少し厄介だな」


 大地が呟くと、鈴菜が彼の隣に並び立つ。


「増えてはいますが、確実に小さくなっています。このまま続けていれば、いずれ倒せるはずです!」


 鈴菜の言葉通り、病魔は分裂の度に小さくなっていた。始めは三階建ての建物くらいの大きさだったものが、今は小さいものだと平屋ひらやくらいの大きさになっている。


「スズナちゃんの言う通りだよ! 頑張ろう!」


 鈴菜の隣に立ちながら、奈沙が言う。そして葉子と鈴菜も頷き合った。


「よし……じゃあ改めて行こう!」


 大地の言葉を合図に、四人は再び病魔たちに向かって駆け出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る