転生した元最強魔王様の悠々自適な奴隷ライフ!~奴隷の罪も功績も全ては御主人のもの。黒幕と言われても何のことやら~
小龍ろん
第1話 奴隷商館の女帝と従順な(?)下僕
「”女帝”だ! ”女帝”が来てくれたぞ!」
「うおぉぉお!」
「勝てるぞ! 俺たちは生き残れるんだ!」
我らが到着したとき、その場には”女帝”の来訪を喜ぶ声で溢れていた。
さすがは我らの御主人、なかなかの声望である。良きかな、良きかな。
「よくぞ来てくださった!」
兵たちを押しのけて、将官らしき男が現れた。この部隊の指揮者であろう。
「私はブルス辺境方面の討伐軍を預かるニルス・スタットです。イザベル殿、ご助力感謝いたします」
「いえ……王国の危機に駆けつけるのは、王国民として当然のことですから」
と言いつつ、御主人が我をちらりと見た。何か言いたげであるが、ここはスルーの一手だ。
現在、ベステン王国のブルス辺境は魔物の大暴走――いわゆるスタンピードと呼ばれる災害に直面している。
押し寄せる魔物の数は数万にものぼり、記録に残る最大数を優に更新した。謂わば、未曾有の危機だ。
対応に苦慮した国軍は、民間人でありながら、一軍にも勝る戦力を保有すると噂の傭兵――人呼んで”奴隷商館の女帝”に協力を要請した。誰あろう、我が御主人のことである。
「恥ずかしながら、我が部隊の戦力では戦線を維持するのもギリギリの状態です。イザベル殿には魔物どもを側面から襲撃し、敵戦力の撃滅をお願いしたいのですが、いかがでしょうか」
問われたことに答えることなく、御主人が不安げに我を見る。まったく困ったものだ。もっと堂々としてもらわなければ。
仕方があるまい。我が答えるか。
「イザベラ様に代わり、
「おお、さすがは”女帝”だ!」
「奴隷の力を何倍にも引き出すんだってな」
我がそれらしいことを言えば、周囲を取り巻く兵士たちが勝手に御主人の名声を高めてくれる。少々統率が取れていないように思えるが、ほとんどが臨時徴兵された市民であろうから仕方がないことであろう。我の思惑とは一致しているので何の問題もない。
「いえ、私は……」
おっと、御主人が余計なことを言おうとしているな。そうはさせんぞ。
「イザベラ様、ご謙遜も状況を選ばねば。今は情報を正確に伝えるべきときです。皆様、ご安心を! イザベラ様の力を以てすれば、魔物の暴走など恐るるに足りません!」
「「「おおお!」」」
うむうむ。うまい具合に盛り上がった。
が、少し盛り上がりすぎだな。兵たちの叫びで耳が痛い。
「貴方―――、余計――――」
おや、御主人が何か仰っている。雰囲気からしてお小言かな。兵たちの叫びで何も聞こえないが、適当に頷いていれば問題あるまい。
さて、そろそろか。
魔力を込めて手を叩くと、小気味よい音が辺りに響いた。ごく弱くではあるが注意を引きつける精神魔法を併用しておるので、こういうときには便利だ。
「イザベラ様より指示がありました。我々はこれより、転移にて魔物の軍の側面に移動します。吉報をお待ちください――――では、イザベラ様」
我が合図を送ると、御主人が嫌そうな顔で頷いた。
そして、おもむろに両手を掲げる。まるで大魔術でも使いそうな雰囲気だ。
実際のところ、御主人のポーズに深い意味はない。あえて言うならば演出である。それだけでは地味なので、我が魔法でピカピカ光らせておこう。兵たちは、こういうわかりやすい演出を好むものだからな。
さて、御主人は転移魔法を使えないので、実際に働くのは我だ。とはいえ、我にとっては100人規模の転移などチョチョイのチョイである。なにせ、元魔王であるからして。余裕過ぎるので、派手に空気を揺らして、この場に膨大な魔力が集まっているかのような演出でもしておこう。
こういった演出は無駄なように思えるが、決して
いや、実際のところ我にとっては簡単なのだが、だからといって大したことではないと思われるのは腹が立つ。しかも、簡単にできるならと、気軽に頼んでくる愚か者が出てくるので非常に面倒くさい。
だからこその演出である。さも大魔術かのように見せることによって――実際に大魔術なのだが――軽々しくは使えないと錯覚させるのが肝要だ。
負担が大きい大魔術となれば気軽に頼まれることもないであろうし、もし引き受けるとしても大きな恩が売れる。後のことを考えれば、演出に手は抜けないというわけだ。
だが、そろそろいいだろう。魔力が高まる演出はバッチリだ。これで誰もチョチョイと使ったとは思うまい。
最後にピカッと閃光を発生させる。兵たちの目が眩んでいる間に一斉転移だ。瞬きするほどの間に、元いた場所からそれなりに離れた森の中に転移した。
「目が、目がぁ!」
「ニャア!! 目が潰れるニャ!」
「アグニス、急にはやめろってあれほど!」
おっと、しまった。同僚の者たちの目も眩ませてしまったらしい。
だが、苦情は御主人にお願いしたい。奴隷の罪は主人の罪なのでね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます