第33話:一件落着じゃ!

「差し入れじゃ!」

 お小遣いから捻出したお菓子を持参し、お見舞いに来たアハトが目撃したのは同じくお見舞いに来ていたセリュから渡されたお菓子をもりもりと、幸せそうに食べているアナであった。それはもう物凄い勢いである。

 アハトが突然現れるまでは。

「こ、声かけてって前にも言ったのに!」

「ぶはは、すまぬすまぬ」

「ノンデリクソ野郎」

「んふぅ、きついのぉ」

 事件が謎を含んだまま終息し、それから間もなくしてアナたち昏睡者は次々と眼を覚まし、現在はカウンセリングを行いながら徐々に復帰を進めていた。

「ところで最近、剣を腰に提げてないけど……どうしたの?」

「ぎくり」

 戦闘で粉々に砕けた、とは言い辛い。

「我ながら応急処置が力技だったから、正直打ち直せるものなら打ち直したいんだけど……アナも目覚めたし安くしとくわよ」

「実はの、戦闘で使ったんじゃ」

「使い辛かった?」

「んにゃ、ええ切れ味で、持ち手も頑丈ですこぶる使いやすかった」

「……そう、ならよかった」

 アナはセリュの表情を見て苦笑する。朴念仁のアハトには表情の変化など感じ取れていないだろうが、あれは褒められて嬉しい顔つきである。

「で、剣は?」

「ちと、その、状態が、のぉ。気合い入れて振り回し過ぎての」

「別に打ち直しなら折れても構わないけど?」

「粉々じゃ」

「……は?」

 セリュの表情がさらに変化する。

 誰にでもわかる形で。

「破片もどこに行ったかわからん。直せる?」

「わけねーだろドブカス。どこの世界に剣を扱って粉々に砕く奴がいるの? 馬鹿なの? 嘘でももう少しマシなのつきなさいよ!」

「う、嘘じゃないんじゃ」

「じゃあ見せて、証拠」

「み、見せられぬ」

「何故?」

 不死身の手合いを殺すための剣であり、一応現状自分の最終奥義でもある。おいそれと見せるわけにもいかず、そもそも危なっかしくてあまり使いたくない。

 斬る対象を間違えるとシャレにならないから。

「もう二度と面倒見ないから」

「そんなぁ」

「ふふ、仲良しだね」

「「!?」」

 そんなこんなで平和が戻りつつあった。


     ○


「兄貴ィ!」

「トレーニング中、サボるな馬鹿ゴールド」

「放せェ!」

 最近、少しずつ高等部でも実力が認められつつあるのか、よく他の者とトレーニングに付き合わされ、周辺が静かになったアハトはホッとしていた。

 放課後、こうして心静かに木を彫る。

 至福のひと時。

 しかし、

「アハト。修行に付き合って」

「嫌じゃ」

「……じゃあ、生徒会の呼び出し」

「じゃあ、ってなんじゃ」

「修行の方が個人的に優先だから。会長のお使いはいいかなって」

「僅差で……呼び出しじゃの。どっちも嫌じゃが」

「ちっ」

 ライトが少し離れた分以上に、クーがべったりとなって大変であったのだ。これでは何の意味もない、とアハトが抗議しても首を傾げたり、逃げ出したり、まともに言うことを聞く気がない。

 聞けば末っ子、大層甘やかされて育ったそうな。

 金持ちのボンボンも、高貴な末っ子も勘弁してほしい。

 その上、

「生徒会に協力してほしいんだ」

「嫌じゃ!」

「私は口が堅い方なのだけれど、あれからセスランス先生も含めてかなり問い詰められてね。必死に黙秘したんだよ。全ては君のためにね」

「うぐ」

 金髪イケメン王子様による怒涛の勧誘攻勢も始まってしまった。

「仕舞いには、理事長にまで呼び出されてね。厳しい尋問だった」

「……す、少しだけなら」

 ここで可哀そう、と思ったのが運の尽き。

「本当に!? よかった。今度、私は帝国へ中等部の学生代表として御呼ばれしていてね。そこで護衛をしてもらいたいんだ」

「なんじゃ、それぐらいならまあ、お安い御用じゃ」

 噂の帝国にも興味があるし一石二鳥じゃ、とアハトは安請け合いしてしまった。

「ありがとう。じゃあ、明日から早速レッスンを開始しようか」

「れっすん? 何のじゃ?」

「まずは社交ダンスだね。立ち方、歩き方も。まあ君なら楽勝だろうけど」

「待て待て! 何故わしが踊らんといかんのじゃ?」

「え? だって私のパートナー役だから」

「……?」

「女装もしてもらうよ。もちろん」

「な、なんじゃとォ!?」

 ママ上に続き、まさかの方向から刺客が現れた。

 守れるか、漢の威厳。


     ○


「オーテヤーデ」

「む?」

「身だしなみ不備。マイナス十点だ」

(いつも思うが、何の点数なんじゃこれ)

 誰にでも厳しいセスランスもまた驚異の回復力で復帰し、すでにBの教壇に立っている。高等部の、プロを志す者たちをきっちり可愛がってもいる。

 そんな厳格な教師は今、

「しっかりせよ。親御さんに恥じぬようにな」

「う、うむ」

 アハトのネクタイを直していた。ミリ単位で。

「「……」」

(なんなんじゃ、この時間は)

 鬼教師セスランス。アハトには何故か特別『厳しい』対応を取るようになる。

 理由は不明。


     ○


 危うく魔王軍が再始動するところだった『エリン』を巡る事件の影響はまだ残っている。ミーシャが取りなすも、勝利したであろうもう一つの存在が判明せぬ限り、全てが払しょくされることはないだろう。

 魔王も、そして帝国も、そもそもファリアスも含めて真実を知りたがっている。ただ、セスランスにエインと交戦し敗れて以降の記憶はなく、同席していた中等部二人もまたわからない、と突っ張ったため謎は謎のまま。

 今後、世界がどう動くかはわからない。

 それでも――


「んもう、ママご立腹! 週一の約束なのにぃ!」


 アハトから送られてきた手紙を読み、彼が生徒会に巻き込まれたり、木工クラブへ入部したり、友達が出来たり、そんな内容に母は嬉しそうに微笑む。

「パパ、見て見て。ワシちゃんからの手紙!」

 亡き夫の写真立ての前に手紙を重ね、

「楽しそうでしょ?」

 嬉しそうに、でも少し寂しそうに笑みを深めた。

 そして、

「オーテヤーデ先生~。お腹痛~い」

「はいは~い」

 息子の学費のため、ひいては自らの老後のため、家をそのまま診療所としてこっそり開業した母はいそいそと仕事場へ戻ろうとする。

 その前にうんと背伸びし、

「平和ねえ」

 窓から注ぐ陽気を浴びて元気を貰う。

「よっし」

 今日も一日頑張るぞ、と。

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転生剣豪ズバババァーン!! 富士田けやき @Fujita_Keyaki

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