第21話:自分だけ置いてけぼりな気がするのぉ

「木のぬくもり、感じていかない?」

「魔術と化学の融合、調和! 錬金術こそ至高の学問ン!」

「学校の数学じゃ物足りないよね? わかるよ、数学とは深淵であり哲学だ。薄っぺらい上辺だけのお勉強に意味はない。堕ちよう、沼へ!」

「剣? 盾? ナンセンス。時代はお薬、わかる? ああ、もちろん合法だよ。安心してくれ。これ、攻撃力上げる奴ね。ちょっとテンションがぶち上がっちゃうけど……もちろん合法だよ。全然セーフな奴。あとこれは――」

「深淵と戯れよ(魔術を楽しもうっ!)」

 放課後の工房棟を歩む二人に怒涛の勧誘攻撃が嵐のように降り注ぎ、そのあまりの勢いにアナなど目を回していた。

 皆、中等部から人材をかき集め、囲い込むためにこの時期は勧誘に必死であるのだ。全てはクラブ存続のため。

 特にCコースはクラブ活動がそのまま就職活動への実績となるため、学校側も推奨しており、活動自体も盛んである。

「どこも盛り上がっとるのぉ」

「すごいねえ。圧倒されちゃう」

「うむ。元気が一番じゃ」

 現在は工房棟にある限られた部屋を、活動実績を盾に奪い合う熾烈な実績バトルがあるため尚更熱気も跳ね上がるのだ。

「しかもどこもこう、何と言うんじゃろうなぁ。社会と地続きと言うか、何ぞ役立つことばかりじゃからのぉ」

「ファリアスのいいところだね」

「大したもんじゃ、本当にの」

 社会に根差した学習。クラブ活動はその流れを構築している一要素でもある。スペースの問題もあるが、競わせているのもそういう側面があるのかもしれない。

 素晴らしい環境である。

 さすがは名門校、

「あの盗撮魔を、ブンヤを取り押さえろ! 風評被害の元凶だぞ!」

「第二新聞クラブをよろしくゥ! 非公認だからこそできる、イリーガルな活動を楽しもう! 先生、学生の醜聞タレコミ募集中!」

「待て~!」

 さすがは、

「Bのボケ! 死ね! 脳味噌筋肉詰まってるゥ!」

「ぶっ殺す!」

 さすが、

「放せ! セスランスのクソ野郎!」

「許可のない酒類の製造、販売は法律で禁止されている」

「人々の娯楽を奪うな! 法律に縛られた犬どもめ~!」

 全部が全部そういうわけではない模様。

「「……」」

 非公認の非公認たる所以を垣間見た彼らは何も言わずにそそくさとその場から離れる。工房棟は魔境、その一端を知る。

 そんな修羅場を尻目に、

「ここは?」

「しゅ、手芸クラブです」

「ほほう。ここがアナの気になっとるクラブなんじゃな」

「う、うん」

 二人は工房棟の中で比較的おとなしい、落ち着いた場所に至る。

 それは、

「ようこそ。ゆっくり見ていってね」

(ま、まともじゃあ)

 手芸クラブであった。

「アナちゃんは二回目かな。今日は作業していく?」

「い、いえ、今日は見学だけで」

「ふーん、うふふ、了解」

 地味だが侮ることなかれ、学院創立時から存在するクラブであり、卒業生の活躍ぶりに関して言えば、学内のクラブでも指折りの精鋭ぞろいでもある。

 そもそもの範囲が広いのだ。

「糸や編み方次第でね、布地や衣服に様々な効果を付与することが出来るの。温かくしたり、涼しくしたり、斬撃に強くしたり、打撃に強くしたり」

「ほほ~」

 単純な衣食住の衣に関する仕事から、魔獣の体液や毛、珍しい土地の木々などから手に入る特殊な糸を用いたり、魔術的な構造を造り出す編み方を、織り方を行ったり、マジックアイテムクリエイターとしても就職先がある。

 広く深い、その分知識のアップデートは欠かすことは出来ずに、また時代の変化や流行にも敏感でなければならない、と難しい仕事でもある。

 そんな仕事を志す、もしくは手に職を付けたい、単純に細やかな作業が好き、など真面目な学生が必然的に多くなるクラブでもあった。

 勧誘は最低限、新入生が来ても見ての通りがっつかない。

 それはクラブ活動の、自信の表れでもある。

「地味だけど、昔からこういう小物を作るのが好きで、その、面白そうだな~って思っているの。も、もちろん、就職とかにも有利だから――」

「好きこそものの上手なれ、じゃ。ええと思う」

「じゃ、じゃあ一緒に入らない?」

「んにゃ、わしゃあ細い作業が苦手じゃ」

「そ、そっかぁ」

 ズーン、と落ち込むアナ。

「時には人と歩調を合わせるのもよいが、自らの人生を他人の選択にゆだねてはならぬぞ。必ず、後悔する。思うがままに、悔いのない選択をすればええ」

「……う、うん」

「わしもここはアナに向いとると思うぞ」

「そ、そう?」

「うむ」

 落ち込んでいたが向いている、と言われてアナは少し持ち直した。人からあまり褒められたことがなく、何かに向いていると言われたこともなかったから。

「あの、私、入部したいです」

「そうこなくっちゃ。真面目な子は大歓迎よ。彼氏くんはどうする?」

「か、かれし、じゃないです!」

 だから、勇気をもって踏み出してみる。せっかくの学生生活、何もしないのはもったいないから。その選択を見てアハトは微笑み、

「では、わしは御暇しようかの」

「ご、ごめんね、アハトくん。一人で勝手に決めて」

「否。先ほども言ったがそれでええんじゃ。自らのやりたいことが見つかったのなら上々じゃろう? わしも軽く回り、見つけてくるとしよう」

「う、うん。決まったら教えてね」

「無論じゃ」

 アハトはにっこりと微笑み、クラブを決めたアナを残して去って行った。

「残念だったね、彼氏」

「だ、だからちがいます!」

 男連れで来た末路、しばらくはこのネタで弄られる。真面目な子が集まっているが、真面目な子も恋バナには興味津々なのだ。

 学生だもの。


     ○


「そりゃあ!」

「ドォラァ!」

 アハトは一人、Bコースのクラブを見学していた。近接職が集うこのクラブは剣や槍、果ては拳など様々な戦士の卵たちがしのぎを削っている。

「……」

 皆、未熟である。当たり前だがアハトが戦ってみたい、そう思えるような学生はいない。そして、それは何も悪いことではないのだ。

 今を必死に、未熟ながら精一杯励んでいる。

 その汗が、努力が、美しい。

「……」

 彼らから学ぶことはないが教えることはできる。それも世のため人のため、良き道筋なのかもしれない。だが、今の自分では答えが見え過ぎてしまう。彼らに正解を授け、与え、ゴールまで伝えることが出来てしまう。

 そう、嫌でも透けるのだ。

 彼ら一人一人の才覚から、例え最善の道を歩んだとしてもここ止まりである、と。ゴール、完成系までが見える。天井が見える。

 それを伝えてしまったら、きっと向上の楽しみが、喜びが失われてしまう。初めからお前はここが限界、頑張ったらここまで行ける。

 伝えた方が効率的だが、それを知った者が果たしてどれだけ頑張れるか。

 どれだけ励むことが出来るか。

「……頑張れ」

 胸躍る景色である。だが、自分が混じることでこの景色を壊してしまうかもしれない。事実、どれだけ多くの武人が自分と対峙し、横目で見るだけで剣を置いたか。どれだけ多くの道を潰して来たか。

 自分はいない方がいい。

 しゃしゃり出る幕ではない。

 誰よりも得意で、誰よりも愛している。だからこそ誰よりも先へ到達した。生涯をかけて歩み、何も残すことなく潰えた。

 今、偶然自分は新たなる人生を歩んでいる。その理屈は知らないが、そのこと自体には母含め感謝している。

 されど、やはりこうして眺めて思う。

「……うむ」

 自分は此処にいるべきではない、と。

 それを少し寂しく思う。

「兄貴ィ!」

 突然目の前にとさかがにょき、と伸びてくる。

「!?」

「こんなとこで何してんですか? はぁ⁉ ま、まさか、俺の、ため?」

「アホか! ってか、病院はどうしたんじゃ、病院は!」

「いや~治りました。昔からやたら頑丈なんすよ」

(結構ええのもらっとったと思うんじゃが……案外体は才能あるのぉ)

「あはは」

 アホ面で笑うとさか男、ライトを見てアハトは何とも言えない表情を浮かべる。しんみりしていたところに、このアホ面がにょきっと生えてきたのだ。

「……」

 包帯だらけではあるがピンピンしているところを見ると、本当に怪我自体はかなり沈静化しているのだろう。その部分だけは大したものである。

(その部分だけはの)

「何か言いました?」

「なんも言っとらん」

 あと、若干エスパーも入っているのかもしれない。何度も思うが、とんでもない男に関わってしまった、とアハトはため息をつく。

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